「ココだけの話ですが……」を繰り返す営業が、成果を出せないワケ

» 2025年05月27日 07時00分 公開
[山本洋子なぜあの人は初対面で信頼されるのか]

この記事は『なぜあの人は初対面で信頼されるのか』(山本洋子著、日本能率協会マネジメントセンター)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。


仲間内での内緒話は悪いことではないが……

 仲良しグループが集まって話が盛り上がると、さまざまな話題が飛び交い、時がたつのも忘れて話し込んでしまうことがあります。気心の知れた仲間同士ですので、オフレコの話など、仲間内だけでしか言えない話も出てきます。

 それはとても楽しいのですが、時折「ココだけの話」が飛び出すことがあります。仲間内での内緒話は決して悪いことではありませんが、本当の意味での「ココだけの話」というのは意外と少ないものです。なぜなら、「ココだけの話」を乱発する人は、どこでも「ココだけ」を強調していることが多いからです。

sai 提供:ゲッティイメージズ

「ココだけの話」を連発する同僚

 私が保険会社で営業パーソンとして独り立ちした頃のことです。まだ営業経験も浅く、お客さまとの商談で、うまくクロージングができず悩んでいたときがありました。同じ頃入社した同期も同様の悩みを抱えていたので、お互い商談のどこに課題があるのかを確認し合おうということになり、お互いの商談に同行することにしたのです。

 同行といっても、カフェで同僚が商談している隣のテーブルにつき、カフェにいるお客さまのふりをして商談のやりとりを観察しました。商談が始まり、アイスブレークでお客さまの緊張を解きほぐし、穏やかな雰囲気で商談が進んでいきます。やがて気持ちも乗ってきたのか、同僚もだんだんと饒舌(じょうぜつ)になっていきました。

 そこで私が違和感を覚えたのが、「ココだけの話」の多さでした。業界の裏話や他のお客さまの家庭事情など、実名こそ出さないものの、かなり込み入った話を「ココだけの話」として、展開していたのです。

相手に不信感を抱かせてしまう

 「ココだけの話ですが……」と語り始めると、相手は興味を示します。この話は自分だけに話してくれているのだと、特別扱いされていると感じる人もいるからです。お客さまに優越感を感じてもらうことは悪いことではありませんが、必要以上に連発すると、優越感を通り越して、相手は逆に不信感を持ってしまいます。この人の言う「ココだけの話」は、「ココだけ」ではなく、あちこちで言っているのではないかと思われてしまうからです。

 この同僚の場合も例外ではありませんでした。最初はお客さまも興味を持って聞いていたのですが、だんだんと表情が曇っていきます。

 同僚はそれに気付くことなく「ココだけの話」を続け、その結果、それ以上商談が進むことはありませんでした。相手に特別感を与えているつもりが、逆に相手から不信感すら抱かれてしまうという、なんとも皮肉な結果になっていたのです。

「ココだけの話」は怖い話と心得よ

 このような営業話法を続けているようでは、当然保険をご契約いただくことなどできるはずがありません。商談時だけでなく、仲間内でも「ココだけの話」が多く、最後まで信頼を取り戻すことができなかった同僚は、入社して1年も経たないうちに退職してしまいました。

 一度失われた信頼は、簡単には取り返すことができません。「ココだけの話」は、本当に心を許すことのできる相手や大切に思う相手に対して、相手のメリットになる情報だけを、他言することなく伝えて、初めて威力を発揮するものです。相手の関心を引くために軽々しく多用するものではありません。ビジネスシーンで乱用すると、かえって信頼を失うという手痛いしっぺ返しがきます。

 「口は災いのもと」といわれるように、本当はココだけではない「ココだけの話」は、回り回って自分の信頼をおとしめる怖い話になることを肝に銘じないといけません。

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