トップダウン時代の再来か? 「トヨタの独走」と「日産の低迷」に学ぶリーダー論Merkmal(1/2 ページ)

» 2025年06月21日 08時00分 公開
[成家千春Merkmal]
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 英国の代表的な高級日刊紙『ガーディアン』は2025年1月30日、Z世代に広がる「強いリーダー」待望論を報じている。以下はその引用(を訳したもの)である。

チャンネル4の世論調査によると、13歳から27歳の52%が「議会や選挙に煩わされない強力な指導者」が変われば、英国はもっとよい国になると考えており、33%が「軍隊が指揮を執れば」もっとよい国になると考えている

 チャンネル4は公共サービステレビ局のひとつだ。1982年に開局し、BBCやITVと並ぶ主要な放送局である。

 このように、Z世代では強いリーダーに魅力を感じる傾向が強まっている。しかもこの志向は政治にとどまらない。企業経営の領域にも波及しつつある。

 「独裁型リーダー vs. 調整型経営者」という構図があらためて注目を集めている。社内外の調整に追われるサラリーマン経営者とは対照的に、カリスマ性を備えたトップが企業を牽引するスタイルに関心が集まっている。

 本稿では、自動車業界の事例として日産などの経営構造を検証し、「企業に民主主義は必要か」という問いに迫る。

「独裁型リーダー vs. 調整型経営者」という構図があらためて注目を集めている。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 自動車産業は、生産体制の構築に巨額の設備投資を要し、開発サイクルも長期にわたる。そのため、経営トップの決断力が企業の方向性を大きく左右する。

 「100年に一度の変革期」とされる今、自動車業界では電気自動車(EV)シフトが緩やかに進行している。ソフトウェア開発の強化やサプライチェーンの再構築など、迅速な判断が不可欠な局面が増えている。

 一方で、社内外の調整に追われる調整型のリーダー、いわゆる「サラリーマン社長」には限界があるかもしれない。慎重すぎる意思決定の積み重ねが、経営リスクを増幅させる可能性もある。

トップダウン体制の象徴・トヨタ

 トップダウン体制の象徴がトヨタだ。2019年に約50人いた役員陣を大幅に削減し、2020年7月には豊田章男社長(当時)を含む執行役員を23人から9人に絞った。現在もこの体制は維持され、階層の少ない意思決定プロセスが迅速な経営判断を可能にしている。

 その象徴的な成果が、2021年に発表されたEV戦略である。その後、販売目標の見直しが繰り返された点も、柔軟な方向転換が実際に機能している証左といえる。

トヨタと対照的な日産

 対照的なのが日産だ。2018年11月、カルロス・ゴーン会長(当時)が金融商品取引法違反で逮捕されて以降、強いリーダーシップに基づくトップダウン経営は影を潜めた。

 その後は、役員による合議制が経営の中心となった。この体制は今日まで堅持されているが、柔軟性を欠き、EV戦略や新興市場での展開で他社に後れを取った。結果的に、合議制の弱点だけが表面化し、トヨタとの差は拡大する一方となっている。

権限の集中=「独裁」とは限らない

 日本企業では、社内昇進を前提とするサラリーマン社長が主流となっている。これは、コンプライアンスやガバナンスの強化にともなう企業統治の構造変化の帰結ともいえる。

 サラリーマン社長は、いわば「安全運転型」の経営を志向する。リスクを避け、無難な選択を重ねる傾向が強い。長期的には組織の安定を担保できる一方で、変化への対応力や外的圧力への耐性に乏しい。結果として、大胆な成長戦略を描けず、徐々に競争力を失うケースも少なくない。

 その一方で、独裁的なリーダーによる企業統治が否定一辺倒で語られることには、再考の余地がある。例えば、ゴーン氏の強いリーダーシップは、経営危機にあった日産を立て直す推進力となった事実は否めない。

 権限の集中が即「独裁」であるとは限らない。むしろ重要なのは、それを制御できる内部統治の仕組みが存在するかどうかだ。Z世代が強いリーダーを求める背景には、不安や不信がある。

  • 政治不信
  • 社会の分断
  • 将来への閉塞感

――そうした感情が、強いリーダーへの幻想を生んでいる。

 企業においても傾向は同じだ。Z世代は「いい切れる」トップに魅力を感じる。彼らのロールモデルは、

  • トランプ氏
  • マスク氏
  • 中国企業の創業経営者たち

――である。

 ただし、強いリーダーシップには危うさもともなう。変化を起こしてくれそうといった期待が先行し、現実とのギャップが生まれることもある。行き過ぎれば、組織の硬直化や不正の温床にもなり得る。強さは、制御されてこそ価値を持つ。

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