M&Aによるエンジニアの離職に対し、企業はどうすればいいのでしょうか。採用や人材戦略の観点から見た答えは、企業が現場目線に立って制度や環境を整えることです。具体的なポイントを紹介します。
(1)評価制度の適用において「経過措置期間」を設ける
統合後、いきなり新しい評価制度を適用するのではなく、「経過措置期間」を設けることが有効です。例えば、2〜3年の経過措置期間を設定し、旧制度との併用を認める方法もあります。
また、技術成果やチームへの貢献度、ナレッジ共有といった要素を定量・定性の両面で評価できる基準を構築し、エンジニアが納得できる仕組みにすることが重要です。評価制度の設計段階からエンジニアを巻き込み、「一緒につくる」プロセスを持つことで主体性と納得感が育まれます。
(2)「エンジニア文化の多様性」を認める
開発チームには、それぞれに根付いた文化やスタイルがあります。コードレビューの進め方や開発スタイル、コミュニケーションの粒度なども無理に統一するのではなく、一定の裁量権を与えて「文化の多様性」を認めることが重要です。
経営層に技術出身者や“翻訳者”となる存在を配置し、現場との価値観のずれを埋める橋渡し役を担ってもらうことも有効でしょう。開発拠点や技術ブランドの独自性を維持することも、エンジニアが「自分らしく働ける」安心感につながります。
(3)キャリアの選択肢を広げる
全てのエンジニアがマネジメント職を目指しているわけではありません。むしろ「現場で技術力を磨き続けたい」「技術に深く関わっていたい」と考える人も多いです。そのため、M&A後もスペシャリストとしての評価ルート、技術カンファレンスへの登壇支援やOSS活動の後押しなどの成長支援策を明確に提示し、多様なキャリアパスを用意することが重要です。
さらに、新たな開発チームの立ち上げや、プロダクト企画に関わる機会を設けることで、エンジニアの意識を買収された側ではなく、「新しい価値を生み出す側」へとシフトさせることも可能になります。キャリアの選択肢を広げることは、離職防止にとどまらず、組織としての活力を高めるためにも欠かせない視点です。
IT業界におけるM&Aは、単なる資本や事業の再編ではなく、企業文化や働く環境、人と組織の関係性を見直し、再構築する側面を持っています。経営戦略としての成否はもちろん重要ですが、現場で働くエンジニア一人ひとりが「ここで働き続けたい」と思える環境を整えられるかどうかが、真の成否を分ける鍵となります。
採用や人材開発の観点では、M&Aをきっかけに「どんな組織を目指すのか」「どんな人材と働きたいのか」を再定義することが必要です。経営と人事、現場が連携し、「文化」と「成果」の両立を目指すことこそが、次世代のIT企業に求められているのではないでしょうか。
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