変革の財務経理

脱「Excelと根性」頼みのファイナンス! Microsoft流「1万5000時間削減」したAI活用法

» 2025年06月24日 07時00分 公開
[Alexei AlexisCFO Dive]
CFO Dive

 「AIは社内で非常に大きな変化をもたらしており、何千時間もの業務時間と、数百万ドル規模のコストを削減している」――米Microsoftでモダンファイナンス部門を率いるコリー・フルンチリク氏は、同社のAI活用の成果についてこう語っている。

かつては「根性で乗り切っていた」が……Microsoft流のAI活用法

 Microsoftの財務部門が導入しているAIエージェントのラインアップは、Microsoft製の既製ツールと自社開発のカスタムエージェントを組み合わせたもので構成されていると、モダンファイナンスリーダーのフルンチリク氏は説明した。

 例えば、高度なデータ分析を行う「アナリスト・エージェント」などの標準ツールに加え、サプライヤー選定のプロセスを簡素化するためのカスタムAIツール「ソーシング・アシスタント」を導入している。

 このソーシング・アシスタントの導入により、年間で約1000万ドルのコスト削減と、およそ1万5000時間の業務時間短縮が実現されているという。これらの数値は、プレゼンテーション中に示されたPowerPointスライドに明記されていた。

 また、フルンチリク氏は、こうしたAIイニシアチブはコストや生産性向上にとどまらず、過去10年間にわたって財務部門の「人員数の増加曲線」を抑制する効果も発揮してきたと述べている。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 「かつては、Excelのスプレッドシートと“壊れた業務プロセスを根性で乗り切る”という精神論だけを武器に、大量の人材を採用するしかありませんでした。しかし今では、多くの業務を本当に効率化できるようになりました」とフルンチリク氏は語る。

 「私たちは、財務部門に所属する全ての社員が、より大きな成果を上げられるよう支援できる機会を得ています」(フルンチリク氏)

 この発言は、南カリフォルニア大学(University of Southern California)と財務幹部の専門団体であるFinancial Executives International(FEI)が共催したカンファレンスでの基調講演の一幕である。

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2025夏 開催決定!

「経理の700年史」から考える、経理業務の未来とキャリア

【開催期間】2025年7月9日(水)〜8月6日(水)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録

【概要】経理の役割は、新技術の出現や法律制度の整備、新概念の登場によって大きく変化してきました。われわれはどこから来て、どこへ行こうとしているのでしょうか――。歴史を踏まえて経理業務の未来や経理パーソンのキャリアについて考えます。

AIによる財務部門の変革を率いるベテラン

 フルンチリク氏は、マイクロソフトにおけるキャリアが17年に及ぶベテランであり、2018年に現在の「モダンファイナンスリード」職に就任。同社財務部門のDXを主導するほか、他の大手企業の財務幹部とアイデアを共有する役割も担っている(LinkedInプロフィールより)。

 これまでにシニアビジネスアナリストマネジャーやファイナンスマネジャーなどの役職も歴任しており、現場視点と戦略視点の両方を備えたリーダーとして、AI導入による財務変革を実践している。この取り組みは、「人海戦術」から「テクノロジー主導」への移行という、現代の財務組織に共通する課題への有効な解決策を示している。

 Microsoftの財務チームがAI導入の旅を始めたのは約10年前――米OpenAIの「ChatGPT」が世界的に注目を集めるはるか以前のことだと、フルンチリク氏は語る。

 「当初は予測業務を中心とした、従来型の機械学習(ML)から始まりました」と同氏は説明する。そこから監査レビューなどの領域にも応用が広がり、最終的には請求書の支払いや照合、さまざまな承認プロセスの自動化にもAIを活用するようになったという。

 「この10年間で、財務分野におけるAIの応用について多くを学んできました。ですが、ここ2〜3年での進展はこれまでにないほど加速しています。特にChatGPTの登場によって、AIが“共通言語”となり、誰もが手軽に触れられる存在となったことが大きいです。この“アクセスのしやすさ”こそが、新たな発想と活用の可能性を一気に広げてくれました」(フルンチリク氏)

 Microsoft財務部門におけるAI推進の背景には、サティア・ナデラCEOとエイミー・フッドCFOによる企業文化の土台づくりがあったと、フルンチリク氏は語っている。

 2014年にCEOに就任したナデラ氏は、「グロース・マインドセット」(成長志向の考え方)を全社的に浸透させることで、企業文化の変革を促進した。

 「エイミー(CFO)をはじめとする財務リーダー陣は、その理念を積極的に受け入れました」とフルンチリク氏は述べている。

 とくに変化やプロセス改変に慎重な傾向がある財務・会計職においては、この“マインドセットの転換”が極めて重要だった。「どうすればもっと良く、もっと安く、もっと早く、もっと効率的に業務を行えるか」を自問し続けるような文化が育まれたという。

 「もちろん、コンプライアンスや規制の問題に抵触しないよう、慎重に段階的に変更すべき領域もあります。ですが、本当に多くの領域では、非常に迅速に変革を進めることができるのです」(フルンチリク氏)

【無料セミナー】実は怖くない! 新リース会計基準

【開催期間】2025年6月2日(月)〜7月18日(金)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより登録

【概要】いよいよ2027年4月に適用が迫る、新リース会計基準。「どんな準備が必要かよく分からない」「そもそも何がどう変わるの?」という経理の方や、「ROAや自己資本比率が悪化する」という情報に戸惑う経営者の方は多いはず。新基準に詳しい公認会計士の中田清穂先生に「何がどう変わるのか」「企業への"本当の"影響は?」といった対応に必須の知識を、どこよりも分かりやすくお伝えします。

© Industry Dive. All rights reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR