変革の財務経理

数式不明「おばけExcel」と格闘→残業40%減! 経理“人手不足のDX”推進のカギは経理よ、生き残れ! DXへの道

» 2025年05月29日 07時00分 公開
[川満龍太郎ITmedia]

新連載:経理よ、生き残れ! DXへの道

ミスの許されない業務、次々に襲いかかる法令改正──経理の仕事は過酷だ。慢性的な人手不足の中で経理組織が生き返るには、戦略的なDXしかない。上場グループ企業経理の経歴を持つライター、川満龍太郎(ペリュトン)が、経理DXの現場を取材する。


 大量の紙による帳票、誰も数式が分からない「お化けExcel」。経理部門には大きな負担がかり、特にマネジャー陣は、走って終電に駆け込む状態が続いていた。

 人材サービスなどを展開するみらいワークス(東京都港区)で取締役CFOを務める池田真樹子氏は、2022年頃までの同社経理部の状態をそのように話す。

 人材獲得は急務だったが、東証グロース市場に上場している同社にフィットする経験を持つ経理は、なかなか見つからない。「人を足せないのなら、業務フローを変えるしかない」と考え、DXに乗り出した。

 その結果、経理の残業時間は40%削減。さらに数字の正確性・スピードを高め、経営陣からの差し戻しも減ったという。どのように改革を進めていったのか、池田氏に話を聞いた。

誰も数式が分からない……「お化けExcel」との格闘が悲劇を生んでいた

 課題は多岐にわたっていた。もともと、ほとんどの帳票を紙で運用していたが、改正電帳法やインボイス制度への対応を迫られ、各種ツールをどんどん積み上げて使うようになっていた。結果的に、ツール間の連携が複雑になり、そこに人の手が入ることでミスが起きてしまう。

 「速報値を経営陣に報告しなければならない中で『スピードも間に合わない、品質も悪い、どうしよう』と。現場のメンバーで頑張って締めてくれますが、結果的に誰も数式が分からない“お化けExcel”が出来上がってしまっているから、手戻りもある。経営陣も経理も、お互いにストレスを抱えていました」(池田氏)

photo みらいワークス取締役CFO 兼 コーポレート部長 池田真樹子氏

 経理のメンバーは、月次・四半期の締めが始まると、残業を繰り返していた。特にマネジャー陣は終電に走って帰るのが当たり前になってしまっていた。

 しかし、人員を増やすのも難しかった。そもそも採用が困難なのだ。「経理の採用は非常に難しい。上場会社は約4000社しかないため、経験者を採用しようとするとまず母集団があまりいません。私たちが求めるマネジャー層は売り手市場で、リファラルで(会社間を)動いているケースも多いんです」と池田氏は語る。

 また、当時は紙ベースの業務が多かった。紙の帳票は場所を取る。外部倉庫の保管費・輸送費がかかり、現物が回るため経理はリモートワークができない。また、承認者が会議を終えてデスクに戻ると、承認書類がたまっている。支払いが絡み、急を要するものもある。監査法人が紙を見なければならない点も大きな課題だった。書類を段ボールで運び出して監査するため、手間がかかり、その工数は監査報酬にも跳ね返ってくる。

過去の振り返りよりも、業務の理想の在り方を議論する

 課題は山積みだが、一方で会社の規模は拡大していく。2023年の初頭、バックオフィスの改善は急務となっていた。「当社はDXコンサルをサービス化しているのに、自社の経理がこんな状態でいいのか」と池田氏は感じていたという。

 そこで同社が取ったアプローチは興味深い。同社サービスに登録している“プロ人材”の力を借り、現状の分析から始めるアプローチを取ったのだ。同社は人材のマッチングサービス・転職支援事業を展開しており、IT導入、マーケティング、会計などの専門性を持つ8万7000人(2025年3月31日時点)を抱える。

 「不思議な“お化けExcel”を、プロ人材に調べてもらうところから始めました。構成図を作ってもらい、それを見たときに『ERPの入れ替えが必要だ』と。また新しい事業ができればこれが増えるわけで、いたちごっこになるので」(池田氏)

photo 「お化けExcel」を調べた結果、ERPを入れ替えることに(提供:ゲッティイメージズ)

 ただ、ERPのリプレースに手を付けるとなると、現場に多大な負担がかかり、並行して行う決算が締まらなくなってしまうことが懸念された。そこで引き続きプロ人材の力を借り、通常業務を遂行する経理と切り離したプロジェクトチームを組成。導入までのプロセスを完遂してから経理に戻すことで、経理の負担を大幅に増やすことを回避しつつ、リプレースに踏み切った。

 プロジェクトチームでは、過去の振り返りよりも、業務の理想の在り方を議論した。最も重視したのは、全てをクラウドに集約することだ。紙やExcelを極力なくし、同じツールの中で連携させることで、人の手を介さずにスピードと品質を上げることを目指した。

 選定したツールはfreeeだ。選定の決め手は、クラウドに集約できたこと、人事労務などへの拡張性が広がっていたこと、上場企業の利用事例があったことなどだった。

 2024年10月、同社の期初のタイミングに合わせてfreeeの本稼働をスタート。freee会計とfreee人事労務を連携させた他、freeeカードも導入した。以前は1枚の法人カードを全社で利用し、明細は紙で管理していたため仕訳に反映するにはタイムラグもあり、不便だった。現在では部門ごとにカードを作り、決済がリアルタイムで反映されている。

採用難時代のDXの人材活用法とは?

 DXを進めた結果として、経理の残業時間は前年の同月6カ月間と比べて約40%削減された。大幅な変化だ。また、締めの期日を守れるようになり、品質も上がり、経営陣が求める水準に合ってきた。「残業時間、締め日、品質で狙い通りの成果が得られた」と池田氏は振り返っている。

 また、業務効率化が進んだことにより、外部のプロ人材の稼働も減っている。前年の決算では2人、約100時間ずつ開示書類などを委託していたが、それらがなくなった。

 人材の活用の区分は、同社のような業態に限らず、多くの企業に参考になるかもしれない。みらいワークスでは、人材を(1)社員、(2)プロ人材、(3)リモートワークの外部人材へのアウトソーシングの3種類に区分して運営している。

 (1)社員はビジョン・ミッションへの共感を重視し、文化を作っていく役割が求められる。(2)プロ人材には、パワーやスキルが必要なとき、依頼する。まさに今回のようなERPのリプレースや決算業務は、その代表的な事例だ。(3)リモートワーカーは、外部人材がスキマ時間を使ってマニュアル通りの仕事をできるように求める。

 (3)リモートワークの外部人材の活用は、今後力を入れたい領域だ。「会ったことがない方にお仕事をお願いしても、同じクオリティーでできるようにする。今回、全てがペーパーレスになったことで、エビデンスとのチェックがリモートでもできるようになります。社内でフローを構築したら外に委託することができます」(池田氏)

photo 今後はリモートワークの外部人材へのアウトソーシングを進めていきたいという

 人が足りないからこそ、仕組みを変える。導入には、社外のプロ人材を活用する。運用に入ったら、リモートワーカーの力を生かす。一連の流れは、採用が難しくなった時代のDXのモデルケースだと言えるだろう。

著者紹介:川満龍太郎

株式会社ぺリュトン代表。2018年より取材・執筆活動を開始。DXや福祉経営に関する記事・動画制作などを手掛ける。

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