YouTube、AI生成コンテンツを「収益化の対象外」に その裏にある3つの意図古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

» 2025年07月11日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


 米Google傘下の動画共有サイト「YouTube」が、収益化対象コンテンツのポリシーを改定し、AIによって大量に自動生成されたコンテンツを収益化の対象外とする方針を明らかにした。

 Veo3やSora、Runwayといった生成AIツールによって、短時間で量産可能になったコンテンツへの対応と見られる。今後は「人間が作成した独自の解説や編集が加わっていないAI音声解説動画」や「単なるスライドショーに近いAI画像の羅列」などが収益化対象から除かれる見込みだ。

 今回のポリシー変更は7月15日から適用される。背景には、視聴者の満足度低下や広告効果の減退に対する懸念──だけではない理由があると考えられる。

「AI生成動画」を収益化対象外に YouTubeの意図は

 YouTubeが収益化の条件として「人的な創意工夫」や「独自性」を重視する姿勢を表明したのは今回が初めてではない。

 2018年頃、YouTubeで「ニュースサイトの記事をコピペして人工音声で読み上げるだけの動画」がよく見られるようになったことがあった。著名な芸能人や政治家などの写真に、本人が言っていない過激な発言の見出しを付けているものだ。

 当時もYouTubeはこの種の動画を「人的な創意工夫」や「独自性」が欠けているとして収益化の対象から除外した。今回のガイドライン改訂もその延長線にある施策と見られる。とはいえ、AIだから目の敵にしているわけではない。どのような意図に基づく判断なのか。

コストと広告価値を守る

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 2018年の事例との違いは「量産性」だろう。

 権利関係を適切にしているかは別として、かつては編集者が動画の構成やサムネイルを考案し、動画の編集も行っていた。1日2〜3本も作れれば大した作業量となる。

 しかし、AI生成の動画コンテンツは専門的なスキルがなくても、見栄えの整った動画を短時間で出力できる。

 YouTubeがAI生成動画の大量生産に懸念を示すのは、第一にコストの問題があるだろう。誰でも膨大な動画データを大量生産できるようになってしまうと、そのような動画を保存するためのストレージコストやエネルギーが経営基盤を圧迫させかねない。

 また、安全な広告掲載環境の確保という狙いもある。AI生成による動画の中には、フェイクか現実か分からないものや、純粋に低品質な動画も少なくない。

 今は、AIの”不器用さ”も笑いのタネの一つとなっているが、それが日常となると視聴者はAIコンテンツそのものに興味を示さなくなってしまう。離脱率が高まることで、収益の柱である広告としてのプラットフォームが毀損されてしまうわけだ。

 収益対象から除外すれば、少なくともAIで動画を大量にアップロードするという行為に対する経済的なインセンティブはなくなるだろう。

AI学習の「循環汚染」を避ける

 最後に見逃せないのが、YouTube自身がAIモデルの学習に動画データを活用している点ではないだろうか。Googleの親会社である米AlphabetのAI研究部門「DeepMind」は、YouTube動画を活用したAIの訓練プロジェクトを進めている。

 つまり、YouTubeに掲載される「コンテンツの質」は、「GoogleのAI開発の質」に直結しているということだ。

 もしYouTubeがAI生成コンテンツを無差別に受け入れ、それをAIが再学習するような構図になれば、質の低いコンテンツが再帰的に学習される“データ汚染”を引き起こしかねない。

 今回の収益化制限は、AIの健全な発展を目指す上でも、入り口となるプラットフォームの品質管理が不可欠という判断の表れだといえる。

“AI活用経済”との折り合いを模索すべき

 実際のところ、クリエイターが効率的にコンテンツを制作する上でAIはすでに欠かせない存在になりつつある。大手企業のCMやプロモーション動画でも、AI音声合成や動画補間、クリエイティブ生成など、AIを活用した演出は広がっている。

 ここで意識しておきたいのは、YouTubeは「どこまでがAIで、どこからが人間による創作か」という線引きではなく、「コンテンツに人の創意や関与が宿っているか」という本質的な部分を問うているということだ。つまり、形式ではなく中身が重要なのである。

 今後は、AIを利用した場合でも、そのプロセスや関与の度合いを開示するよう求める動きが強まるだろう。YouTubeもAI使用の申告制度を検討しており、曖昧(あいまい)な基準を少しずつ明確化しようとしている。

 クリエイターにとっては、AIの力を借りつつも、自身の表現をどのように込めるかが、今後の競争力の源泉になるだろう。生成AIの進化が進むほど、逆説的に「人間にしか出せない個性」への価値は高まると考えられる。

 創造の舞台は変わりつつあるが、その中心にいるべきは、あくまで人である。YouTubeの方針は、他のプラットフォームにおいても波及していくことだろう。

この記事を読んだ方に AI活用、先進企業の実践知を学ぶ

ディップは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

生成AI
生成AI

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR