ロフトとハンズの“似て非なる”戦略 巨大雑貨ビルが相次ぎ閉店するワケ前編(1/2 ページ)

» 2025年07月14日 07時00分 公開

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 雑貨大手「ロフト」「ハンズ」の巨大雑貨ビルが相次ぎ姿を消している。

 2021年10月には池袋サンシャイン60通りの「東急ハンズ池袋店」(当時)が完全閉店、2025年4月30日には大阪梅田茶屋町の「梅田ロフト」が近隣百貨店「阪神梅田本店」への移転にともない、35年の歴史に一旦幕をおろした。

 両館とも大手私鉄「西武」「東急」をルーツに持つ、日本を代表する雑貨大手の旗艦店としての役割にとどまらない、地域のランドマークとしての役割を担ってきた館であったが、同様の動きは池袋や梅田に限らず全国でみられている。

 「ロフト」「ハンズ」の歴史をひも解き、岐路にある大型店の現状と今後の展望を、2回にわたって明らかにしていく。

1984年10月に開業した「東急ハンズ池袋店」。池袋駅とサンシャインシティを結ぶ好立地を生かした旗艦店であったが、業績低迷とコロナ禍を背景に2021年10月をもって閉店。2025年6月現在は「ニトリ」として営業中(筆者撮影、一部加工、以下同)

三越・高島屋に対抗 西武の業態改革からうまれたロフト

 まずは、ロフトとハンズ、両社の成り立ちから見ていきたい。

 ロフトは1987年11月に西武百貨店渋谷店(シブヤ西武)の別館「ロフト館」として創業した。

 前年1986年3月に開業したファッション専門館「シード館」が国内新進気鋭デザイナーとの協業による独自アパレルや、劇場併設による文化発信機能の強化を図り、成功を収めていた。

 これと同様、ロフト館も米ニューヨークの若手芸術家が集うソーホー地区の屋根裏(=ロフト)文化に敬意を払った館名を冠し、既存の百貨店本館新館という概念とは一線を画した独自コンセプト「時の器」のもと、20〜30代女性を始めとする若者の感性を刺激する生活雑貨/文具やトレンド商品中心の売り場を構築する。

 仕入調達や販促施策に専門スタッフを起用するなど、従来の百貨店や雑貨店といった業態の枠組みを超えた館となった。

1987年11月に開業したロフト1号店「渋谷ロフト」。開業当初はシブヤ西武の別館「ロフト館」だった。

 西武や東急といったいわゆる電鉄系百貨店は、創業以来長らく、三越や高島屋といった呉服系百貨店と比べて暖簾の価値に乏しい新興扱いであり、外商をはじめ、上得意客の獲得に遅れをとっていた。

 こうした背景から、西武百貨店は1964年に西武鉄道グループから独立して以降、「モノ消費」の洗練化として国内外ブランドの育成・誘致といった商社機能を強化してきた。

 また、「コト消費」の先駆けとして文化発信・レジャー事業との提携といった非物販機能も強化するなど、高度経済成長後の消費者ニーズ多様化に対応したグループ拡大と業態改革を特に重視していた。

 一環として、西武百貨店は系列企業各社を「クレディセゾン」「西洋環境開発」といった非物販にひも付く社名に順次刷新。1985年にはグループ公称を「西武流通グループ」から「西武セゾングループ」に改め、小売業から「生活総合産業」への転身をめざしている最中であった。ロフトは過渡期にうまれた象徴的存在ともいえる。

歓楽街が若者の街に変貌 「梅田ロフト」のインパクト

 ロフト全国展開の足がかりとして、1990年4月に開業した関西旗艦店「梅田ロフト」においても、当初はあくまで日本百貨店協会加盟の百貨店という業態区分にあった。しかし、渋谷同様のCDレコードショップ「WAVE」に加え、現代芸術系に強みをもつミニシアター「テアトル梅田」やブックセンター「リブロ」といった西武セゾン系専門店、西武セゾンが開局に携わったJ-WAVE同様に音楽を強みとするFM局「FM802」のサテライトを擁するなど、本店格といえる渋谷の約1.5倍という贅沢な売り場面積を生かしたトレンド文化の情報発信館となった。

 梅田ロフト開業以前の茶屋町は、歓楽街的な要素が色濃い、雑多な雰囲気が漂う街並みであった。

 その後、地域の商業核となるロフトに加え、MBS毎日放送の本社移転や梅田コマ劇場(現梅田芸術劇場)の整備、コナミ直営店チルコポルト(西武セゾン系への運営移行後閉店)をはじめとする有力路面店が登場し、若者の街として急速に変貌を遂げていく。

1990年4月に開業した「梅田ロフト」。阪神梅田本店への移転まで約35年間、茶屋町のランドマーク的存在だった。

 西武百貨店は1991年4月に宇都宮西武新館としてロフト地方1号店「宇都宮ロフト」を開店した。1996年8月のロフト事業分社化後も1998年6月に大宮西武を「大宮ロフト」に、1999年2月に西武スポーツ吉祥寺を「吉祥寺ロフト」に業態を転換。バブル崩壊後の消費低迷や競争激化で経営不振に陥った百貨店事業再建の一環として、従来型百貨店の巨大雑貨ビル化を加速させた。

 同じく西武セゾン系の西友を母体とする無印良品に加え、直営雑貨と親和性の高いムラサキスポーツやヴィレッジヴァンガードといった専門店を配したトレンド文化の情報発信館が全国で広がりをみせた。

2003年12月に開業した東北初のロフト「仙台ロフト」。1982年4月開業の西武セゾン系百貨店「ams西武仙台店」を2003年8月に閉店、無印良品やジュンク堂を専門店フロアに配した巨大雑貨ビルとなった。

 ロフトは西武百貨店からの業態転換でノウハウを蓄積したこともあり、2000年代初頭には「イオン」「そごう」「パルコ」といった西武百貨店と資本業務提携関係にあった企業の不採算フロアに相次ぎ大型店を展開。ロフトを核とする館に全面刷新するなど、店舗再生の急先鋒となった。

 また、競合大手私鉄の本拠地である渋谷や梅田茶屋町で若者の新規獲得を実現したことで、大型店跡地活用と後継店誘致を喫緊の課題とする自治体からの進出要請に加え、地域の求心力向上を狙う競合グループの百貨店や総合スーパーからも歓迎の声も聞かれるようになった。

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