Netflixの大規模リストラはなぜ成功した? 日本企業には真似できない大きな差レイオフ・サバイバー(1/4 ページ)

» 2025年07月18日 06時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

 世界的な不況であっても「一人も解雇するな、1円も給料を下げるな」という信念を貫き、「経営の神様」と称された松下幸之助氏。彼の精神を引き継ぐパナソニックが、構造改革の名の下に、1万人の人員削減をする方針を発表した。

 近年は業績が悪化していなくとも人員削減をする「黒字リストラ」が当たり前になりつつある。余力のあるうちに手を打とうというわけだが、その目論見が成功するかどうかは残された社員たちにかかっている。しかし、彼らは「会社のために頑張ろう」という前向きな気持ちでいるのだろうか。

日本企業が黒字リストラを進める際に知っておくべきこととは(出所:ゲッティイメージズ)

リストラ“されなかった”社員に目を向けると……調査が示すもの

 企業の人員削減と聞くと「辞めていく人たちへの対応」に注目が集まりがちだが、実は会社に残った社員の心にも目を向ける必要がある。1980〜1990年代の米国では「ダウンサイジング」の名の下で大規模なレイオフ(一時的または恒久的な解雇)を行う企業が急増した。製造業からサービス業への産業構造の転換、グローバル競争の激化といった環境変化に対応すべく、IBMやゼネラルモーターズ、P&Gといった大企業が相次いで大量解雇を行い、社会に衝撃を与えた。

 こうした状況の中で「レイオフ・サバイバー」(会社に残った社員)についての学術的な調査が行われるようになる。調査では、解雇を免れた社員が経験する心理的な問題や、それが組織全体に与える影響が浮き彫りになった。例えば、会社に残る個人が受ける影響としては、以下のようなものが挙げられる。

  • 辞めた同僚の業務を肩代わりすることによる過重な負担
  • 「同僚は解雇されたのに自分は残った」という罪悪感
  • 「次は自分が辞める番かもしれない」という不安や焦り
  • 社員を守れない会社や上司への怒りや失望
  • 仕事へのモチベーション低下

 このようなネガティブな心理的反応は、生産性の低下、経営層や上司への信頼の低下、職場の人間関係の悪化、優秀な社員の転職など組織への悪影響をもたらす。成績下位の社員を排除して生産性向上を目指したはずが、組織の停滞をもたらす可能性も大いにあることを、過去の研究は示してきたわけだ。

日本のレイオフ・サバイバーたちの現状は?

 日本では米国ほど解雇が容易でないため、早期退職の形で「リストラ」を行うことが多い。バブル崩壊後やリーマンショックの際は、見かけは「自主退職」でも実態は退職の強要であったケースも多かった。

 たび重なる説得や脅し、理不尽な業務命令や左遷、嫌がらせなどで心理的に追い詰めて退職を選ばせるという手法が横行したわけだ。そのため当時の日本企業でも、米国企業と同様のレイオフ・サバイバー問題が生じていたと考えられる。

 現在は強引な退職強要は減っているし、終身雇用が当たり前でなくなったこと、早期退職者への手厚い退職金の上乗せや転職支援などを背景に「早期退職=不幸」とは言えないケースが増えている。業績悪化で窮地に陥ってからのリストラではなく、まだ余力のあるうちに事業再編を進める企業や、DXで人件費を減らすことなどを目的とした早期退職者を募集する企業が増えている。これらはいわゆる「黒字リストラ」と呼ばれる前向きな改革だ。

 このような時代の変化により、レイオフ・サバイバーの持つ罪悪感や不安感などは、過去に比べて軽減されている可能性も考えられる。

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