また税金? 走った分を課税する「走行距離課税」のゆくえMerkmal

» 2025年07月20日 08時00分 公開
[木村義孝Merkmal]
Merkmal

 自動車の電動化や移動スタイルの変化により、日本の自動車税制は根本的な見直しを迫られている。特に注目されているのが「走行距離課税」だ。これは、車種や排気量に関係なく、実際の走行距離に応じて課税する制度で、従来の自動車税やガソリン税に代わるものとして検討が進む。

 2022年10月26日の政府税制調査会では、走行距離を基準にした課税制度について、具体的な検討が必要との意見が出た。2024年12月20日には、与党が発表した「令和7年度税制改正大綱」において、

 車体課税や燃料課税を含め、中長期的視点から公平・中立かつ簡素な課税方式を総合的に見直す

――と記され、走行距離課税をめぐる議論が続いている。

 導入時期はまだ決まっていないが、2025年度以降の実施を目指し、国や自治体が慎重に検討を進めている。走行距離に応じた課税は、公平な負担配分を可能にする一方、走行距離の正確な把握やプライバシー保護といった技術的・制度的な課題も残る。

 本稿では、走行距離課税の背景、技術的課題、今後の展望までを整理する。

ガソリン税に代わるものとして「走行距離課税」をめぐる議論が続く。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

なぜ「走行距離課税」が検討されているのか?

 走行距離課税導入の最大の理由は、燃料課税収入の減少にある。

 国税庁の最新データによると、2023年度の燃料課税収入(揮発油税・地方揮発油税)は2兆2341億円、軽油引取税は9089億円、石油ガス税は約48億円で、合計3兆1478億円にとどまった。これは2021年度の4兆1356億円から約1兆円(24%)の減少を示している。

  • 車両の電動化
  • ガソリン車の燃費向上

――が主な要因であり、今後も減収傾向が続く見通しだ。

 2023年の国内電動車(ハイブリッド車、電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車を含む)販売台数は前年比26.6%増の200万9725台となり、電動車比率は50.3%で初めて5割を超えた。日本自動車販売協会連合会の発表でも、2023年の新車販売に占めるエコカーの割合は約50%となっている。この傾向が続けば、これまで燃料税で賄ってきた道路整備や維持管理の財源不足が深刻化することが懸念される。

 ガソリン車の減少も顕著だ。2024年の燃料別新車販売台数は、ガソリン車が79万1128台(31.36%)、ハイブリッド車が154万2784台(61.15%)となり、ハイブリッド車が過半数を占める結果となった。電気自動車やプラグインハイブリッド車の割合はまだ小さいが、今後増加が見込まれる。

 政府は2035年までに新車販売で電動車100%を実現する目標を掲げており、税収構造の転換は急務となっている。

若者のクルマ離れが議論を後押し……?

 若い世代を中心にクルマ離れが進み、走行距離課税導入の議論を後押ししている。

 KINTO(名古屋市)は、普通自動車免許を持つ東京都内在住のZ世代(18〜25歳)309人と、地方(政令指定都市がない県)在住の同世代300人を対象に、「【2025年版】Z世代のクルマに対する意識比較調査」を実施した。

 調査によると、東京都内では72.8%が「若者のクルマ離れを自覚」しており、地方でも46.7%が同様に認識している。その理由には、クルマの購入価格や維持費の高さ、最近の急激な物価上昇やガソリン代の高騰など経済的要因が挙げられている。

 一方で、カーシェアリングは急速に拡大している。交通エコロジー・モビリティ財団の2024年3月の調査によれば、

  • カーシェアリングのデポジット数:2万6797カ所(前年比17.6%増)
  • 貸渡車両数:6万7199台(同19.6%増)
  • 会員数:469万5761人(同50.0%増)

――と大幅に増加している。

 さらに、電動キックボードなど手軽な移動手段の普及もクルマ離れを加速させる要因の一つだ。こうしたライフスタイルの変化により、従来の「所有」を前提とした税制では対応が難しくなっている。利用実態に応じた新たな税制の導入が求められているのだ。

「負担増やすべきではない」7割

 走行距離課税導入にあたっては、

  • 正確な走行距離の測定
  • プライバシー保護

――が最大の技術的課題となっている。オドメーターによる自己申告方式は改ざんや虚偽申告のリスクが高いため、海外ではGPS機能付きの専用車載器による自動記録方式が主流だ。

 GPS技術により高精度な走行距離の記録が可能になる一方で、個人の移動履歴や走行ルートなど詳細なデータも収集されるため、プライバシー侵害の懸念が強い。データ管理が不適切であれば情報漏洩や不正利用のリスクがあるため、情報管理体制やセキュリティ対策の強化が必須となる。

 海外ではプライバシー保護の観点から、GPS付き・なしの車載器やオドメーターなど複数の走行距離報告方法を選択できる仕組みや、取得情報を必要最小限に抑える方法も検討されている。こうした選択肢があれば参加者の懸念を軽減できる可能性がある。

 日本自動車連盟(JAF)が2024年に実施した自動車税制に関するアンケートでは、「走行距離課税に関する議論を知っている」と答えたのは33.3%にとどまった。また「これ以上自動車ユーザーの負担を増やすべきでない」と考える人が72.5%を占めた。

 一方で「電動車にも対応した公平な課税制度が必要だ」と回答したのは28.5%であった。これらの結果から、制度設計や社会的受容性の面で丁寧な議論と説明が求められていることが分かる。

 走行距離課税は財源確保のために必要かもしれないが、国民の家計を圧迫する可能性も大きい。特に自動車を頻繁に使う地方在住者や物流関係者、EVユーザーには大きな負担となるだろう。こうした点も踏まえ、国民的な議論が不可欠である。

 

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