では、企業はどうすればいいのか? それは「風通しをよくすること」に尽きます。
社員一人一人が生き生きと働いている「元気な職場」には、パワハラを訴える社員はめったにいませんし、上司や先輩とのコミュニケーションに不愉快さを訴える人もいません。さまざまかつ複雑な感情がよどみなく流れる、風通しの良さが存在するので、ネガティブな感情が生まれてもすぐに解消されるのです。
ただし、風通しのいい元気な職場づくりは組織風土を変える試みなので、組織の経営戦略として取り組まない限り、うまくいきません。そこで役立つのが、「管理職教育」の徹底です。
欧米では、マネジャーへのEI(Emotional Intelligence、感情的知性)を向上させる教育が徹底されています。EIは「感情を認識し、理解し、管理し、活用する能力」のことで、マネジャーには自分だけでなく部下の感情を理解し、活用する能力が求められます。
それは「豊かな人間関係を育み、部下の自己肯定感を高め、やる気を向上させる」スキルです。EIは相手の心情を鑑みつつも、自分の言うべきことを伝えるスキル向上につながるため、上司とのコミュニケーションに不快感を抱いたり、傷付いたりする社員を減らすことになります。
片や、日本ではマネジャー=管理職と呼びながらも、チームメンバー内の人事権も裁量権も与えられず、それでいて「パワハラ」などの問題を組織的な問題としてではなく、加害者と被害者との個人間の問題にしがちです。
新しい言葉が生まれ、広がるのは、その言葉がよく当てはまる問題があっちこっちで起こり、何らかの共通ワードが求められているからにほかなりません。それまで仕方がないと諦めたり、なかったことにされたりした問題を、「共通ワード」があれば顕在化でき、涙するしかなかった人を助けられます。つまり、今回の「グレーゾーンハラスメント」という新語も、その一つです。
コミュニケーション不全は、全ての問題の原点です。企業側は企業戦略として「風通しをよくするには何を、どうすればいいのか?」を徹底的に考え、実行し、うまくいかなければ改善する、を繰り返してください。
そして、「10歳以上」の社員はパワハラやグレーゾーンハラスメントの加害者にならないために、部下や後輩と話すときは「相手も立派な会社員」と強く意識してください。その意識があれば、ため息、舌打ち、あいさつを返さないなどの行為はなくなるはずです。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) など。
新刊『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)発売中。
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