興味深いことに、この現象は営業だけでなく組織においても同じだ。なかなか言うことを聞かない部下でも、
「課長がそこまで言うならやります」
という部下はいる。同じ原理である。
ある製造業の課長の話だ。新しい品質管理システムの導入を部下に説明したが、反応は冷ややかだった。
「今のやり方で問題ありません」
「新しいシステムを覚える時間がもったいない」
典型的な可燃人の反応である。しかし課長は諦めなかった。なぜなら、そのシステムを活用したほうが生産性がアップすることが明らかだったからだ。毎週の会議でも必ず触れ、個別面談でも話題にした。あくまでソフトタッチで、
「君たちの負担を減らしたいんだ」
「これで残業が月10時間は減るはずだ」
このように言い続けることで、3カ月後、ついに部下たちが折れた。
「課長がそこまで言うなら、試してみます」
「せっかくだから、やりますか……」
上司にとって、火がつくのに少し時間がかかるタイプは厄介だ。しかしいったん火がつくと、その行動はずっと続く。
AI時代になり、完璧な提案書は誰でも作れるようになった。データ分析も瞬時にできる。論理的な説明も得意だ。
しかしAIには「せっかくだから」を引き出せない。「そこまで言うなら」と言わせることもできない。なぜか?
それは人間にしかない「熱意」や「情熱」が必要だからだ。人間の心に火をつけるのは、やはり人間だからである。
顧客のニーズを研究し、商品開発や提案スキルを磨くことは基本だ。それが前提であり、妥協することなくやり続けるべきだろう。しかし大抵の場合は、それだけでは不十分だ。相手は人間であり、コンピュータではないからだ。
営業も組織マネジメントも、結局は人と人との関わりだ。相手の心に火をつけることができるかどうかが成否を分ける。
「せっかくだから」
「そこまで言うなら」
この2つの言葉を引き出せる人こそ、AI時代を生き残ると私は思う。営業だけではない。論理と感情、データと人間味。そのバランスが今後ますます重要になるだろう。
昭和的と揶揄(やゆ)されるかもしれない。だが人間の心理は、そう簡単に変わらない。AIが進化すればするほど、人間らしい営業活動やマネジメントの価値は高まるのだ。
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