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【10月施行】育児・介護休業法改正で「5つの選択措置」義務化へ 企業が“困りがちなポイント”とその対策連載「情報戦を制す人事」

» 2025年08月20日 09時00分 公開
[井上翔平ITmedia]

連載「情報戦を制す人事」

人事向けシステムを提供する株式会社Works Human Intelligenceが、人事職なら押さえておきたい最新の人事トレンドや法改正情報を伝えます。

 2024年6月に育児・介護休業法が大幅に改正され、2025年4月および10月に段階的に施行されます。特に10月施行の「柔軟な働き方を実現するための措置」は、企業それぞれが対応を選択する自由が認められている点が注目されています。

 選択する措置によっては、業務への影響も大きいため、関心が高いテーマです。施行を直前に控え、課題が見えてきた企業も少なくないのではないでしょうか。

 今回は、2025年10月に施行される「柔軟な働き方を実現するための措置」に伴い必要な準備や具体的な対応ステップと、当社が実施した聞き取りから浮かび上がった企業が抱える課題と、解消のための工夫について紹介します。

 また、10月の施行に向けて就業規則の規定例についてもご紹介します。

【何が変わる?】育児・介護休業法改正の概要

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 令和5年版厚生労働白書によると、2022年の雇用者の共働き世帯は1262万世帯と、2012年の1054万世帯に比べ、約20%増加(※1)しました。

 さらに団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる、2025年問題にまさに今直面しています。このような状況を受け、労働者が育児・介護と仕事を両立できる支援制度をさらに充実させるというのが今回の法改正の目的です。

(※1)厚生労働省「令和5年版 厚生労働白書」 図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移

 男女ともに仕事と育児・介護が両立できる状態を目指して、改正育児・介護休業法が2025年4月と10月に段階的に施行されています。育児・介護を行う労働者が柔軟に働ける制度策定に加えて、企業側からの制度周知や利用意向確認といった働きかけが強化されます。

改正のポイント3つ

 2025年に施行される育児・介護休業法改正のポイントは、以下3つに大別されます。

  • (1)労働者の状況や希望に応じた働き方の実現(働き方の選択肢拡大)
  • (2)企業と労働者のコミュニケーション強化(制度の周知・意向確認など)
  • (3)既存制度の対象拡大や要件緩和(制度の利用機会拡大)

 以下では4月、10月の改正内容の全体像をまとめています。カッコ内は改正後の対象となる子の年齢、学年や要介護者の介護レベルを補足しています。

施行時期 育児・介護 改正点
2025年4月 育児 (1)労働者の状況や希望に応じた働き方の実現
・育児のためのテレワーク努力義務化(〜3歳)
・短時間勤務代替措置にテレワーク追加(〜3歳)
(2)企業と労働者のコミュニケーション強化
・育児休業取得状況の公表義務拡大
(3)既存制度の対象拡大や要件緩和
・所定外労働制限(残業免除)の対象拡大(〜小学校就学)
・子の看護休暇見直し(〜小学校3年生)
介護 (1)労働者の状況や希望に応じた働き方の実現
・介護のためのテレワーク努力義務化(要介護状態)
(2)企業と労働者のコミュニケーション強化
・介護離職防止のための雇用環境整備
・介護離職防止のための個別の周知・意向確認
・介護離職防止のための情報提供
(3)既存制度の対象拡大や要件緩和
・介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
2025年10月 育児 (1)労働者の状況や希望に応じた働き方の実現
・柔軟な働き方を実現するための措置(3歳〜小学校就学)
(2)企業と労働者のコミュニケーション強化
・柔軟な働き方を実現するための措置の周知と意向確認
・仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取、配慮

(参考)厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(PDF

【どんな準備が必要?】「5つの措置」のうち2つを選択する

 10月から「育児期の柔軟な働き方を実現するための措置」として、事業主は3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下5つの措置のうち2つ以上を選択して実行する必要があります。労働者は、事業主が選択した2つの措置から1つを利用できます。

柔軟な働き方を実現するための措置 詳細
始業時刻等の変更 フレックスタイム制または始業、終業における時差出勤
テレワーク等(10日以上/月) ・PCを使用しない在宅勤務やサテライトオフィスでの勤務を含む
・原則時間単位で取得可
保育施設の設置運営等 「等」にはベビーシッターの手配かつ費用補助がある(カフェテリアプランのメニューでも可)
就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年) 養育両立支援休暇とは3歳から小学校就学前の子を養育する労働者が就学予定の小学校の下見など、子の養育に資するものであればいかなる目的でも使用可能な休暇
短時間勤務制度 1日の所定労働時間をを原則6時間とする措置を含むもの

(参考)厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(PDF

 上記の措置のうち、事業主がどの措置を選んだか、従業員が実際にどの措置を選びたいかなどを適切な時期に、対象の従業員に対して個別に周知・意向確認することが必要です。以下では、周知・意向確認の時期や内容、方法についてまとめています。

項目 内容
周知時期 労働者の子が3歳の誕生日の1カ月前までの1年間
(1歳11カ月に達する日の翌々日から2歳11カ月に達する日の翌日まで)
確認内容 (1)事業主が選択した柔軟な働き方を選択するための措置(2つ以上)の内容
(2)対象措置の申出先(例:人事部など)
(3)所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度
方法 (1)面談
(2)書面交付
(3)FAX
(4)電子メール等 のいずれか
※(1)はオンライン可、(3)(4)は従業員が希望した場合のみ

(参考)厚生労働省 「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(PDF

【どんな規定を作る?】就業規則の例

 柔軟な働き方を実現するための措置の就業規則における規定例については、厚生労働省が公開している「育児・介護休業等に関する規則の規定例」に掲載されています。

 ここでは2024年の法改正で新たに育児両立支援策として登場した「就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(以下養育両立支援休暇)」と、「ベビーシッターの手配及び費用補助」の規定例について解説します。

 まず養育両立支援休暇の規定例です。

photo (出典)厚生労働省Webサイト育児・介護休業等に関する規則の規定例「05 育児・介護休業等に関する規則の規定例」(PDF

 養育両立支援休暇は、子の養育に資するものであれば、その理由を問わず労働者が取得できる休暇です。そのため、就業規則において、取得できるのは子の看護や学校行事のような目的に限るといった限定をした場合、養育両立支援休暇とは認められません。上記の規定例を参考に、取得目的を限定する記載を入れないようにしましょう。

 また養育両立支援休暇は無給でも構いません。そのため6項では労務提供のなかった時間分については、基本給から控除すると記載があります。

 ただし企業によっては養育両立支援休暇を有給にするケースもあり得ます。その場合は、「本制度の適用を受ける間の給与および賞与については、通常の勤務をしているものとし減額しない」といった記載にして差し支えありません。

 養育両立支援休暇は、企業によって月1回までの使用とするといったルールを定めても問題ありません。その場合は「養育両立支援休暇の取得は、1カ月につき1日を限度とする」といった規定を追加しましょう。

 次に「ベビーシッターの手配及び費用補助」の規定について解説します。

photo (出典)厚生労働省Webサイト育児・介護休業等に関する規則の規定例「05 育児・介護休業等に関する規則の規定例」(PDF

 「ベビーシッターの手配及び費用補助」については、ベビーシッターの「手配」と「費用補助」の両方がセットでなければなりません。そのため、事業主は必ずベビーシッター事業者と契約した上で、従業員に手配する必要があります。従業員が自らベビーシッター事業者を選んで、その費用を補助するだけでは柔軟な働き方を実現するための措置としての「ベビーシッターの手配及び費用補助」とは認められませんのでご注意ください。

 規定としては第3項一号の「会社が締結した契約に基づく(保育サービス会社)」という内容は必須です。

 また助成額をどれくらいにするかは法律の定めはありませんので、従業員の意向なども踏まえて事業主が自由に規定することができます。

【何に困る?】企業が抱える課題と対策

 施行を直前に控える中、「柔軟な働き方を実現するための措置」の実施に向けて課題が見えてきた企業は少なくないようです。

 当社Works Human Intelligenceが提供する統合人事システム「COMPANY」を利用する法人に「柔軟な働き方を実現するための措置」の実施に当たっての課題と、円滑に実施するための工夫を尋ねたところ、以下のような声が挙がりました。

工数の多さや管理の煩雑さ

  • どの選択肢を取得するかの意向確認や管理の煩雑さ(製造業)
  • 該当する従業員の数が多い中、抜け漏れがないようにどうやって説明するのか、工数的に賄えるのか不安(製造業)

業務への影響

  • 子の看護等休暇の範囲を広げ、取得事由が柔軟になったことで、同時に休暇取得されることになると、業務に支障がでてしまう(医療業)
  • 職場全体の労働時間が減ってしまいさらに人員不足にならないか心配です(教育業)
  • 養育両立支援休暇を一度にまとめて従業員がとった場合、業務に支障が出てしまう(教育業)

所属部門や勤務場所が異なる従業員間の公平性

  • テレワークの場合、措置を職種で分けて実施することになるので従業員間で不公平感が生まれてしまう(サービス業)
  • 全職種に対して実施しているが、製造現場の従業員への適応は現実的に難しい(交替勤務や人員不足)(製造業)
  • 業務上、現場のテレワークは不可、本社部門のテレワークは可となっているため
  • 不公平感がある(福祉業)

子どものいる従業員といない従業員間の公平性

  • どこの部署も人手不足のため「休まれると困る、業務に支障がでる」という声もあがると思う。その声に対してどうフォローするのか対策しないと育児中以外の方から反発の声が上がり、結果逆に育児中の方が働きづらくなるのではないかと思う(福祉業)
  • 子育て世代に手厚くなる一方、独身者やさまざまな事情で子どもを持たない、持てない従業員との格差が広がるように感じている(製造業)

 「柔軟な働き方を実現するための措置」を実施する上での課題として、対応や管理に要する工数、休暇の取得などによる業務への影響、従業員間の不公平感に関する課題、懸念が挙がりました。

【どう対策する?】課題を解消するための工夫

 上記のような課題が挙がる中、企業では円滑に進めるためにどのような工夫をしているのでしょうか。主に従業員への周知、説明の工夫や業務への影響を最小限に抑えるための試行錯誤が見られました。

説明会、研修の実施

  • アンコンシャスバイアスに関する教育・研修の実施など
  • 管理職向けに本制度に関する説明会を実施する予定

業務への影響対策

  • 始業時刻の変更に対応するために朝礼などの廃止を考えている
  • 祝日の会議を極力なくす
  • 養育両立支援休暇は月1日までの使用とすることを検討している

その他

  • 施策2つから1つを従業員に選択させるのではなく、2つ施策を用意したら、両方どちらでも使えるように運用する予定
  • 全職員向けに提供するガイドを刷新のうえ周知する。また、重点的に制度説明する範囲の拡大を検討する

 短時間勤務制度や休暇取得のような労働時間が減少する措置を選択した場合、これまでと同等の業務の量、質を確保するために業務の効率化も同時に進める必要があります。

 養育両立支援休暇については、年10日以上取得することができれば、例えば月に1回までと事業主側で決めても構いません。利用ルールを定めることにより、業務への影響を抑えることができますが、従業員の意向にも配慮するようにしましょう。

【対応のポイント】制度作りだけでなく、環境整備も忘れずに

 今回の育児・介護休業法改正では、企業に求められることが多くあります。就業規則の変更、従業員への説明資料の作成、労働組合などからの意見聴取といった事務的な業務に追われる企業も多くなるでしょう。まずは法改正に間に合うように準備を進めることが必要です。

 その上で、制度を作るだけではなく、従業員が利用しやすいような環境を作ることも意識する必要があります。制度を作っても利用できずに、子育て従業員が仕事をやめざるを得ないという状況になることは避けたいところです。

 今回の措置の利用に当たっては、同じ職場の従業員の理解も重要です。措置の利用によって、業務調整を行う場合は育児を行わない従業員への負担が増えることもあります。こうした負担増によって、育児を行わない従業員が不公平に感じないようにケアする必要もあります。応援手当として業務を代替した従業員へのインセンティブを与えることや評価を上げることも方法の一つとして考えられます。

 育児や介護との両立支援制度がどれだけ充実しているかは、既存の従業員の離職防止になるだけでなく、求職者が会社を選ぶ際の一要素として、採用競争力の向上にもつながります。

 すでに2つ以上の措置を実施している法人においては、育児を行わない従業員も含めた福利厚生制度の拡充を考えてもよいでしょう。例えば子に限らない家族に対しても広く使える休暇などが考えられます。

 企業は、自社の業務特性や従業員の声を踏まえながら、育児・介護を行う従業員の望まぬ退職をなくすこと、そして育児・介護中ではない従業員もモチベーション高く、業務に取り組めるような仕組みを整えることが重要です。

著者プロフィール

井上 翔平 株式会社Works Human Intelligence WHI総研

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2012年、政府系金融機関に入社。融資担当として企業の財務分析や経営者からの融資相談業務に従事。2015年に調査会社に移り、民間企業向けの各種市場調査から地方自治体向けの企業誘致調査まで幅広く担当。2022年に(株)Works Human Intelligence入社。さまざまな企業、業界を見てきた経験を生かし、経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決するための研究・発信活動に取り組む。また、社会保険労務士の資格を所持しており、法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1200法人グループへの導入実績を持つ。

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