「○○キャンセル界隈」という表現が若者の間で流行している。これは「○○をやりたくない」「○○を回避したい」という意味で使われる。自虐的なニュアンスを含みながら、同じ価値観を持つ仲間を見つけるための合言葉となっている。
もともとSNS発祥の言葉だ。「界隈」という表現で緩やかなコミュニティーを示す。「キャンセル」は拒否や回避を意味する。つまり「○○をやらない人たちの集まり」という意味である。
代表的な例をいくつか紹介しよう。
「風呂キャンセル界隈」は、疲れて風呂に入るのが面倒くさい、風呂に入る気力がない人たちを指す。「今日も風呂キャンセル」とSNSに投稿する。すると同じ境遇の人から共感のコメントが集まるようだ。
「外出キャンセル界隈」は、天気や気温に敏感になり、「外に出たくない理由」を探して外出をキャンセルする人たちだ。週に1回ぐらいしか外出しない人もいるという。
「人付き合いキャンセル界隈」は、相手に対する気遣いで気疲れしてしまう人が使う表現だ。友達や同僚にも付き合わないし、親族との集まりもキャンセルしてしまう。
これらの表現に共通するのは「義務感からの解放」である。やるべきことをあえてやらない。その選択を肯定的に捉える文化が生まれている。
この「キャンセル界隈」文化が、ついに職場にも波及した。それが「残業キャンセル界隈」である。定時になったら仕事が残っていても帰る。この行動を「ノリ」で実行する若者が増えている。
ある製造業の事例を紹介しよう。「今日中に、この提案書を仕上げてくれ」と部長が頼んだ。依頼された25歳の営業担当者は素直に「分かりました。すぐやります」と返した。だが、定時である午後5時30分になると、荷物をまとめて帰ろうとする。
「おい。まだ提案書はできていないだろ?」
当然、部長はそう呼び止めたのだが、彼はこう言い放ったのだ。
「私、残業キャンセル界隈の人なんで」
部長は言葉を失った。
「残業キャンセル、界隈……?」
意味が分からないので、気心の知れた課長に尋ねると、「○○キャンセル界隈」というフレーズについて教えられた。
「冗談じゃない!」
部長は憤りを隠せなかった。以前は、定時退社する若者たちの言い分は、
「ワークライフバランスが大事ですから」
であった。そのたびに、この部長はこう語りかけた。仕事をきちんとこなしたうえでプライベートを充実させることが、正しいワークライフバランスだ。仕事を放棄してライフを優先するのは本末転倒だ。責任放棄しているといわれても仕方がないぞ、と。
このように諭せば、ほとんどの若者は部長の言葉に納得した。スキルや経験が足りないのに、最初からバランスのとれた仕事人生を送ることなどできない。とくに部活動を一所懸命にやってきた若者は理解が早かった。
「私は野球部だったので、納得できます。プライベートを充実させながら、スタメンを目指すなんて、できませんよね。まだ経験が浅いのに」
ところが今回は「ワークライフバランス」ではなく、「残業キャンセル」がテーマである。この営業部長は頭を抱えてしまった。
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