大量閉店のヴィレヴァン かつての“サブカル王者”が失速した「3つの誤算」とは?前編(1/2 ページ)

» 2025年09月16日 07時00分 公開

 かつて「唯一無二のサブカル系チェーン店」として知られ、全国各地に店舗網を拡大していた個性的な雑貨店・書店「ヴィレッジヴァンガード」(社名:ヴィレッジヴァンガードコーポレーション、本社:名古屋市名東区)の業績が振るわない。

 2025年5月期の連結決算は、売上高については約249億円とほぼ横ばいだったものの、最終損益は約42億円の赤字となり、最終赤字は2期連続。今年7月には2026年5月期以降に全店舗の約3割にあたる81店舗の閉店を検討していることを発表。店舗網は最盛期の半分以下となる約200店舗にまで縮小する見込みだ。

 「日本のサブカルチャー」が隆盛を極めるいま、かつてのサブカル界の雄は復活を遂げることができるのだろうか。

閉店が相次ぐヴィレッジヴァンガード。別れを惜しむ「黄色いPOP」が淋しさを誘う。業績不振から抜け出せない要因は、そして復活のカギはあるのか――。(写真:若杉優貴)

著者紹介:若杉優貴(わかすぎ ゆうき)/都市商業研究所

都市商業ライター。大分県別府市出身。

熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。

大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。

アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。


ナゴヤ発「遊べる本屋」の挑戦

 ヴィレッジヴァンガード(以下「ヴィレヴァン」)は、1986年に創業者であり現・会長の菊地敬一氏が名古屋市天白区で創業。もともと菊地氏が勤務していた個性派書店から着想を得たもので、菊地氏の故郷・北海道にあった「ジャンルを問わずなんでも販売する雑貨店」のような店を目指したという。また、当初は「音楽も楽しめる店舗」を作るべく、ライブスペースを設置する構想もあったそうだ。

 マイカー文化が進んだ愛知県ということもあってか、1号店をはじめとして当初は郊外・ロードサイドを中心に展開。1996年には関西1号店として神戸ハーバーランド店を、1998年には東京1号店として下北沢店を出店。次第に都市部の路面店、そして「パルコ」や「マイカルビブレ」など、大都市から中都市のファッションビルへも店舗を広げた。

 このころには一部の都心旗艦店にステージが設置され、さまざまなアーティストやクリエイターらのイベントも開催されるようになり、創業当初の目標であった「音楽も楽しめる店舗」を実現することができた。

下北沢の象徴的存在の1つ「本多劇場」と同居するヴィレッジヴァンガード下北沢店。下北沢店は1998年に出店。劇場やライブハウス、古着屋などが並ぶ商店街に立地する(写真:若杉優貴)

ヴィレヴァンの拡大の原動力は「ショッピングセンター」にあった

 店舗網を拡大しつつあったヴィレヴァンにとって、1つの転機となったのが2000年に大規模小売店舗法(大店法)が廃止(大規模小売店舗立地法、通称・大店立地法に移行)され、以前よりも大型ショッピングセンターの出店が容易となったことだった。

 これによりイオングループやイズミ(ゆめタウン)などといった流通・不動産大手はショッピングセンターの出店を強化することとなり、ヴィレヴァンもその勢いに乗るかたちで地方のショッピングセンターへの大量出店を開始。

 2003年4月のJASDAQ上場後はさらに出店攻勢をかけ、2004年には直営店舗数が100店舗を、2006年には200店舗を突破した。

 さらに香港や台湾など、東アジア圏にも店舗網を拡大することで、2001年3月から2008年8月まで、実に7年半ものあいだ連続増収を続けることとなった。

 ヴィレヴァンはこの時期に開業した店舗面積2万平方メートル規模を超える大型ショッピングセンターの半分以上に新規出店していたと思われる。このころの出店攻勢により、ヴィレヴァンは現在も「全都道府県に出店」しており、さらに「日本国内にあるイオンモールの半分以上にヴィレッジヴァンガードが出店」しているという状況だ(2024年時点)。

赤字転落と店舗減少 転機を迎えた2010年代

 しかし、2010年代に入ると業績に陰りが見えはじめる。

 2014年5月期に初の営業赤字を計上したのちは断続的に赤字決算となり、店舗数も減少に転じた。2025年5月時点では海外店舗は全て撤退、かつて400店近くあった店舗数(グループ全体を含めると500店近く)は293店舗となっている。

 今回の81店舗閉鎖計画により、ヴィレヴァンの店舗数は2006年ごろの水準である200店舗ほどにまで減る見込みだ。

 それでは、ここまでヴィレヴァンが不調から抜け出せないのはどうしてなのか――。

ヴィレヴァンの店舗数推移。最盛期のほぼ半分にまで減ることになる(筆者作成)
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