地震や津波といった災害、サイバー攻撃といった“想定外の事態”が起きてしまったとき、迅速に、最適な対応ができるだろうか。災害に備えることは、企業に求められる重要な経営戦略の一つとなった。
住民のインフラとしての側面を持つコンビニ各社も、BCP対策を強化している。7月30日に発生したロシア極東カムチャツカ半島沖地震では、セブン-イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマート各社で、一部店舗の営業を一時取りやめた。日頃からルールを定めていたことで、迅速に対応できたという。
今回は、大手コンビニ3社のBCP対策について、話を聞いた。
ローソンでは、自治体や国のルールに応じて、津波注意報は「警戒する」、津波警報は「避難する」とマニュアルで明記している。カムチャツカ半島沖地震の際は、津波警報が発令されてすぐ、各店で原則一時休業の判断をしたという。
リスク統括部石合大悟部長は、「行政が明確に避難指示を出していたので、企業も後に続くことができた」と振り返った。
日頃から「安否確認システム」や「インシデントマップ」(緊急避難場所検索ツール)、「災害情報地図システム」「ステータスchecker」などさまざまなツールを運用し、有事に備える。
「ステータスchecker」は災害時でも各店の運営状況、停電状況を把握できるツール。スーパーバイザーが自身の担当店舗の情報を入力する。
「災害情報地図システム」はハザードマップや避難所情報で、各災害時の避難場所をまとめて、共有している。
「安否確認ツールは長年導入しているが、東日本大震災の際に、通信が途絶してしまい、うまく運用できなかったことがある。それを受け当社では、いかなる手段を用いても連絡を取り合い、災害対策本部で情報を収集するという方針に変更。災害用伝言ダイヤル、メール、電話、SNSなど、複数の手段で迅速に状況把握できるように取り組んでいる」(石合氏)
また、「人命第一が最も重要」という考えを各店舗に伝えることも重視している。
東日本大震災では、住民のインフラであるという強い責任感から店の運営を続け、被害に遭ってしまったオーナーがいたと振り返り、「『人命第一』『安全第一』と強く伝えている」と話した。
今後のBCP対策について、注力テーマを2つ挙げる。
1つは具体的な災害に備えた訓練の実施。「例えば、首都圏直下型地震が起きたらこういった被害が想定されるため、首都部の動きはどうするべきか──と備える訓練をしている。事前に対処方法をある程度決められていたら、対応できることも増えるはずだと考えている」
2つ目は、物流における連絡体制の確認だ。道路や物流センターが被災した際に、「誰に・何の確認をすべきか」、関連企業と連携し、適切な連絡体制を事前に把握しておくことが重要だと指摘した。
ファミリーマートも、平時より災害に備え、デジタル技術を活用した情報収集・連携の仕組みを構築している。
店舗に配備しているタブレット端末やスマートフォンを活用し、情報集約システムを運用。加盟店側が従業員の安否や店舗の営業状況、商品の納品受け入れ可否などを入力することで、本部がリアルタイムに状況を把握し、効率的な配送や支援体制を構築できるようにする。
同社の広報によると「過去の災害対応の経験から、迅速な意思決定のためには、被害状況や各所の対応状況といった情報をリアルタイムかつ一元的に把握することが不可欠であると認識している」とし、同システムの運用で「サプライチェーン全体での迅速な情報共有と連携強化を図る」と説明した。
実際にカムチャツカ半島沖地震でも活用しており、加盟店および店舗従業員の安否確認を迅速に実施した。
また、全国1万店に設置しているデジタルサイネージのファミリーマートビジョンに、「命を守る行動をとるように」とメッセージを配信し、顧客や店舗スタッフに注意喚起を呼び掛けた。合わせてアプリ「ファミペイ」のトップページに同様の注意喚起を促すメッセージを配信した。
休業の判断基準については、「何よりも従業員およびお客さまの安全確保を最優先」とし、店舗建物の損壊および行政からの避難指示や休業要請などを基準に判断する。
ファミリーマートも首都直下型地震を想定した訓練を強化している。「本社機能を一時的に西日本へ移管することを想定している」(ファミリーマート広報担当者)と説明した。
2024年の能登半島地震をはじめとする近年の大規模災害から得た学びについて、同社は「コンビニエンスストアが単なる『店舗』ではなく、地域社会に不可欠な『ライフラインの拠点』であるという使命を再認識した」と語る。
具体的な学びについては以下3点を挙げる。
サプライチェーン強靭化の重要性: 道路の寸断などによる物流の停滞リスクを再認識し、代替配送ルートの確保や、地域ごとの商品供給体制の構築が重要であると捉えている。
情報連携の迅速化: デジタルツールを活用したリアルタイムな情報共有が、迅速な初動対応と効率的な支援に直結することを改めて確認した。
行政・地域との連携: 平時からの行政や地域コミュニティとの連携が、有事の際に円滑な支援活動を行うための基盤となることを実感した。
同社はこれらの学びを生かし、今後もBCPの定期的な見直しと、実践的な訓練を継続していくとした。
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