AI時代、事業が変われば組織も変わる。新規事業創出に伴う人材再配置やスキルベース組織への転換、全社でのAI活用の浸透など、DX推進を成功に導くために、組織・人材戦略や仕組みづくりはますます重要になる。DX推進や組織変革を支援してきたGrowNexus小出翔氏が、変革を加速させるカギを探る。
企業の競争力がAIによって左右される時代。「DXやAIリテラシーの教育が急務だ」として、企業が主導するリスキリング施策の重要性が叫ばれています。
しかし、その具体的な打ち手として「取りあえずeラーニングを導入しよう」「はやりの研修を整備しよう」といった対症療法的な施策に終始してはいないでしょうか。
もちろん、学習機会の提供は重要です。しかし、企業の進むべき方向性、つまり事業戦略と連動しない人材育成は、コストを浪費するだけで、真の変革にはつながりません。
自社がどの事業領域に舵を切り、そのためにどのような能力(スキル・専門性)を持つ人材が、いつまでに、何人必要なのか。この問いに明確に答えられなければ、効果的な人材戦略は描けません。
この問いに答えるための強力な羅針盤となるのが、本稿で解説する「動的人材ポートフォリオ」です。
本記事では、事業戦略と人材戦略をダイナミックに連携させ、変化の激しい時代を勝ち抜くための「動的人材ポートフォリオ」の策定手法と、その運用を成功に導くための勘所を、先進企業の事例を交えながら解説します。
人材ポートフォリオとは、企業の事業戦略に基づき「どのような人材が」「どこに」「どれだけ配置されているか」を可視化し、最適な配置・育成・採用を計画するためのフレームワークです。
これは、事業の選択と集中を考える「事業ポートフォリオ」と対になる考え方で、経営資源である「ヒト」の最適配分を目指すものです。この考え方自体は新しいものではなく、1980年代から戦略的人事の文脈で語られてきました。
しかし現代において、ただのポートフォリオではなく「動的」(ダイナミック)であることが強く求められています。
その背景には、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖まい性)と呼ばれる現代のビジネス環境があります。
事業ドメインの転換やビジネスモデルの変革は数年単位、あるいはもっと速いスピードで起こっています。人材の構成もまた、静的なものではなく、事業戦略の変化に合わせて柔軟かつ迅速に組み替えられる必要があります。
さらに「人的資本経営」への注目も大きな後押しとなっています。投資家をはじめとするステークホルダーは、企業が生み出す価値の源泉として「人的資本」に強い関心を寄せています。
自社の戦略実現のために、どのような人材に投資し、その結果どのような価値創出を目指すのか。これを論理的に説明する上で、人材ポートフォリオは不可欠なツールなのです。
それでは、具体的にどのように動的人材ポートフォリオを策定すればよいのでしょうか。ここでは、大きく4つのステップに分けて解説します。
まず、自社の人材をどのような切り口で分類するかを定義します。この「軸」と「粒度」の設計が、ポートフォリオの有効性を左右する最初の、そして最も重要なポイントです。
人材群(人材タイプ)の分け方は企業の戦略や目的によってさまざまですが、代表的なパターンとして以下の4つが挙げられます。自社の状況に合わせて、これらのパターンを単独で、あるいは組み合わせて活用することが有効です。
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