次に、ステップ1で定めた分類に基づき、現状の人員数や構成、質を把握します。
各人材群に何人所属しているか、年齢構成や人件費はどうか、といった定量データを整理します。
ここが特に重要です。特にDX人材のような専門職では、単なる所属部署だけでは質を測れません。
ある金融機関の事例では、デジタル人材のレベルを定義するに当たり、以下の3つの観点から多角的なアセスメントを実施しました。
このように、量と質の両面から現状を客観的に把握することが、精度の高いギャップ分析の土台となります。
中期経営計画や事業戦略に基づき、3〜5年後の「あるべき人材構成」を描きます。
ある産業機械メーカーは、「モノ売り」(機械本体の販売)から「コト売り」(IoTを活用した保守・コンサルティングサービス)への事業転換を掲げました。これに伴い、人材ポートフォリオのTo-beとして、以下のようなシフトを計画しました。
To-beの人数は、事業計画上の売上目標や新規契約数などから逆算して設定します。「コンサル営業1人当たりの年間顧客対応件数」を想定し、目標達成に必要な人数を算出する、といった具合です。
As-is(現状)とTo-be(あるべき姿)を比較し、その差分(ギャップ)を特定します。そして、そのギャップを埋めるための具体的な打ち手を、複数の選択肢を組み合わせて計画します。
重要なのは、これらの施策を個別に打つのではなく、ポートフォリオ上のギャップを埋めるという一貫した目的の下で、体系的に実行することです。
近年、人材ポートフォリオの考え方はさらに進化しています。そのキーワードが「スキルベース組織」です。
これは、従来の「職務」(ジョブ)や「役職」ではなく、個人が持つ「スキル」を最小単位として人材を捉え、仕事(プロジェクトやタスク)が必要とするスキルと動的にマッチングさせていく組織の在り方です。
硬直的なジョブ型では、ビジネス環境の変化にスキルの陳腐化が追いつかないという課題がありました。スキルベース組織では、仕事と人をスキル単位に分解することで、より柔軟でアジリティ(機敏性)の高い人材配置が可能になります。
このトレンドは、人材ポートフォリオにも大きな変化をもたらします。
| 観点 | 従来の人材ポートフォリオ | スキルベース時代の人材ポートフォリオ |
|---|---|---|
| 単位 | 評価・経験がベース(例:管理職候補) | スキル・習熟度がベース(例:AI分析スキルLv3) |
| 粒度 | 荒いメッシュ(例:XX人材をXX人) | 細かいメッシュ(例:デザイン思考スキルLv4を50人) |
| 更新頻度 | 年間・半期など定期的 | リアルタイム(例:研修修了や資格取得で即時反映) |
スキルを軸にすることで、ポートフォリオはよりきめ細かく、リアルタイムなものへと進化します。
これにより「このプロジェクトには、どのスキルを持つ人材が何人必要か」という問いに即座に答えられるようになり、リスキリング投資のROI(投資対効果)も格段に向上します。
どんなに精緻な人材ポートフォリオを策定しても、それが活用されなければ意味がありません。「作って終わり」の絵に描いた餅にしないためには、運用面の工夫が不可欠です。
多くの企業が陥りがちな問題として、以下のようなものが挙げられます。
これらのわなを避け、ポートフォリオを組織に根付かせるためには、以下の6つのポイントが重要です。
最初から完璧を目指さず、既存の人事情報に少しの要素(例:主要スキル、キャリア志向)を加える程度からスモールスタートする。
全社一斉導入ではなく、特定の部門や人材群(例:デジタル人材)を対象に小さく始め、成功体験を積みながら横展開する。
「このデータを使えば、要員補充の要求がスムーズになる」など、現場部門にとっての具体的なメリットを示す。
事業計画の策定時や配置検討会議など、ポートフォリオを「必ず使う場」を設ける。
採用、配置、育成、評価といった人事の各サイクルとポートフォリオを一体で運用する。
タレントマネジメントシステムなどを活用し、データ入力や集計を自動化・効率化することで、運用の負荷を軽減する。
DX・AI時代において、企業の持続的な成長は、事業戦略と人材戦略をいかにダイナミックに連携させられるかにかかっています。動的人材ポートフォリオは、その実現に向けた強力な武器となります。
それは、一度作れば完成する地図ではなく、変化する目的地に合わせて常に更新し続けるべき「航海図」のようなものです。自社の現状を可視化し、あるべき姿を描き、そこへ向かうための航路を定める。そして、航海の途中でも、外部環境の変化に応じて柔軟に航路を修正していく──この終わりなき旅を続ける仕組みこそが、これからの時代を生き抜く組織の条件と言えるでしょう。
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