経営者「出社回帰で生産性向上!」社員「むしろ逆!」──この深刻なギャップはなぜ生まれるのかリモートワーク成功“3つの要素”(3/3 ページ)

» 2025年10月30日 06時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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「週に◯日以上出社」といった一律のルールより“個別対応”が有効に

 こういった状況を踏まえると、全社員に「週に◯日以上出社」といった一律のルールを課すことはおすすめできない。

 個別の状況を見て「あなたはフルリモートでOK」「あなたは週3日は出社してチームで動いてほしい」といった指示を出した方が個々の生産性は高まるだろう。ただし、個別対応は手間がかかるし、「あの人はリモートでできる仕事をしていてうらやましい」というような不満が生じるリスクもある。

 個別対応の手間を減らすには、各自の判断に任せるという方法がある。「このKPIを達成できる範囲でリモートワーク可とする」「定例ミーティングには出社して参加」といったルールを設け、問題がない限りは自由にさせるのだ。

 「担当業務によってリモートの可否が決まるのは不公平」といった不満に対しては、一見リモートが難しそうな業務でも工夫してできそうなら試してみる、家庭の事情などでリモートワークが必要なら配置換えも検討する、といった形で丁寧に対応していくしかないだろう。

 出社をポジティブに捉えられるような施策も、不満への対策となる。先のレバテックの調査では、もしフル出社に切り替わった場合に出社を検討できるような環境や制度として「フレックスタイム制の導入」(42.2%)、「通勤手当・住宅手当の増額」(41.8%)、「ランチ補助や社食の充実」(28.9%)などが挙がっている。「満員電車に乗るのが苦痛」といったマイナス要因をつぶすことで、出社の抵抗感を減らせるかもしれない。

(出典:レバテック「リモートワークに関する実態調査(前編)」)

出社を無駄に感じさせない工夫

 より本質的な対策として、出社する意味のある時間や空間を用意することも重要だ。

 リモートでやるのと同じ仕事をするのでは、出社の労力が無駄に感じられる。出社日は、同じ空間を共有することに意味が感じられるミーティングや作業をする日に当てるべきだ。

 出社日を職場内のコミュニケーションを活性化するための日と位置付け、ランチ会を開催する会社もある。おいしい弁当を取り寄せてチームの交流の時間にする、オフィス近くのレストランで新入社員を囲む、普段は話す機会のない役員とランチを食べられる機会にするなど、ちょっと特別でかつ雰囲気の良い時間を用意することで「出社する価値のある日」にしようというわけだ。

 自宅よりも仕事がはかどる、そんなオフィスを提供するという手もある。

 例えば、オフィス家具の製造・販売を手掛けるイトーキは「ABW」(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という考え方を提唱しており、自社オフィスもそのコンセプトに沿ったデザインになっている。広いオフィスの中に、静かで集中できるスペース、オンライン会議用のブース、2人で横並びで共同作業をするのに適したブース、大画面モニターなど複数人での知識共有のための部屋、リフレッシュできる個室──といったさまざまな空間を備え、仕事の内容に応じて選べるようになっているのだ。

 こういうオフィスなら「リモートワーク以上に生産性が高まる」と期待ができ、出社したくなるかもしれない。

 いずれにしても、組織としての成果、個人としての働きやすさと生産性を両立させるために、リモートワークと出社のベストバランスを追求していくのだ、という前提を明確にすることが重要だ。

やつづかえり

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。


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