企業の「出社回帰」のもう1つの理由として、組織や個人の成長フェーズとリモートワークのやり方にズレがあることが考えられる。
例えば、創業フェーズのスタートアップなら、仕事の場所などあまり問題にならない。リモートでやるか顔を合わせてコミュニケーションするか、創業メンバーたちが必要に応じて判断して実行できるからだ。
しかし事業を回すために人を雇う段階になると、その人たちが働く場所を決めなければならない。新入りのメンバーにも創業メンバーと同等の創造性や自主性をもって動くことを求めるなら、いきなりリモートではうまくいかない。一定期間は創業者や同僚たちと一緒に働き、ビジョンや仕事のやり方を共有する必要がある。これは、一般的な会社で新入社員を迎えたときも同様だ。
一方で、定型的なデータ入力やマニュアルに基づいた問い合わせ対応といった仕事であれば、リモートワークでも問題ない。むしろ、通勤に時間をかけず、集中できる場所でリモートワークをしてもらった方が生産性が上がる可能性が高い。同じ組織内でも、担当する役割によってリモートワークの生産性が高いかどうかが変わってくるのだ。
なお、創造性や自主性が求められる仕事であっても、リモートワークで生産性が向上する場合がある。皆がスタートアップの創業メンバーのようなモチベーションで、自分が何をしたら事業に貢献できるかが分かっており、メンバー間の意思疎通もスムーズで、必要に応じて「これはリモートではなく集まってやろう」と判断して集まることができる……というような場合だ。この状態に至るには、個人のスキルやマインドも、チームの成熟度もかなりハイレベルであることが求められる。
つまり、リモートワークで生産性が上がるかどうかは仕事の種類や個人とチームのレベルによって左右される。
しかし、コロナ禍でなし崩し的にリモートワークを始めた企業では、リモートワークでうまくいっている仕事や個人、そうでない仕事や個人が混在した状態になった。その結果、うまくいっていないところをなんとかしたい経営陣は「出社回帰」を主張し、個人的に生産性向上を感じている社員は反発。社員の自主性を尊重したハイレベルなリモートワークの事例を知っている評論家などは企業の努力が足りないと批判する──といった混乱が起きているのではないだろうか。
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