DX道場で学んだスキルを実践に移し、具体的な成果を上げている社員がいる。キリングループのワイン事業を手掛けるメルシャン(東京都中野区)で、新規事業を担当する田村隆幸氏だ。
田村氏の経歴は、デジタルとは縁遠いものだった。入社後12年間はメルシャンの酒類技術センターで研究職として働き、その後、経営企画部でM&Aを担当。生産企画部門を経て、2017年からワイン造りに携わってきた。そんな田村氏がデジタルスキルに関心を持ったきっかけは、2023年の出張中に同行者から見せられたある記事だった。
「ワインに関する記事を読んでいたら、最後に『この記事の80〜90%は、ChatGPTで執筆しました』と書いてあったんです。こんなに詳しくて長文の記事が、ほぼ自動で作られたと知って驚きました」(田村氏)
2024年にDX道場の受講生となった田村氏。それまでもデジタル技術について独学で学んできたが、実際に研修として学び始めると、初めて見聞きすることも多かったという。DX道場でデジタルスキルを学んだ田村氏は早速、担当する新規事業の業務プロセスに着目。新規事業のため、業務がシステム化されていないこと、そのために発生するさまざまな業務を担当していた社員が異動となったことから、業務の自動化に本格的に取り組み始めた。
2024年12月、田村氏はキリンビジネスシステムが募集していたPower Platform(米Microsoftの業務自動化ツール)活用プロジェクトに応募した。翌年1月に選定され、専門チームによる4カ月間の伴走支援を受けながら、3つの業務フローを改革していった。
1つ目は、再委託業務の依頼プロセスである。従来は口頭で申し込み、記録が残っていなかった。Microsoft Forms(フォーム作成ツール)で業務計画書を作成し、リーダー承認後に自動で発行される仕組みに変更した。
2つ目は、請求金額などの実績登録の効率化だ。従来は複数のExcelに入力・転記する作業を繰り返していたため、ミスも多かったという。これをMicrosoft Formsで入力してリーダーがチェックし、承認されれば基幹システムへのアップロード用Excelと顧客向け明細書が自動生成される仕組みに変更した。
3つ目は、実績管理の可視化である。従来は3つのExcelから売り上げなどの数値を転記し、月次レポートを作成していた。これを基幹システムのデータからPower Automate(業務自動化ツール)で取り出し、Power BI(データ可視化ツール)で確認する仕組みに変更した。その結果、以前は7つあった転記作業がゼロになったというのだ。
田村氏は「僕は基本的に、『作業は楽な方がいい』と思っているんです」と話す。日々の業務を楽にしたいという素直な動機が、実践的な効率化への第一歩になったのだ。
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