もう一つの距離は「心理的距離」。これを縮めているのが沖縄県民の舌に合う商品づくりだ。
沖縄のファミリーマートの中食(弁当・おにぎり・総菜など)コーナーを見れば一目瞭然。ポーク玉子おむすびやタコス巻、沖縄そばといった地域限定商品が並ぶ。さらに見た目は全国共通商品に見えても、できる限り県民になじみ深い味わいに仕立てている。
例えば、ざるそばのつゆであれば、県民に親しみのあるカツオだしが強めだ。中食の売上高の約5割は、何かしらの形で沖縄独自に開発した商品が占めるという。
特に近年は、県内で大きな市場を持つ沖縄そばのリニューアルに力を入れ、具材や量に合わせて178〜680円の4種類のラインアップをそろえる。岸本氏は「麺も含めて取り引きするデイリーメーカーで作っています。沖縄そばは一昨年くらいから改良に力を入れ始め、かなりのレベルまできたと思います」と自信の深さをうかがわせる。
沖縄そば自体は観光客からの需要も高い。ただ、専門店は日中の営業がメイン。原材料高で一杯1000円前後の店も増えてきた。岸本氏は「夜に開いている沖縄そば屋は意外と少ないし、値段も高くなってきた中、私たちは沖縄そばの市場の一部になりたいと思っています。地元の方たちに人気になれば、観光客にもウケると思っています」と客層の広がりを見据える。
こういった独自商品の開発過程で重要なのが、「betterの連続」という考え方だ。
沖縄そばの改良もしかりだが、同社は人気商品であっても頻繁に改良を加える。ポーク玉子おむすび一つとっても、ポークの厚みを1ミリ単位で調整したり、ツナや卵焼きとのバランスを変更したりしてきた。単年では大きな違いは分からずとも、10年スパンなど長期で比較すると大きく進化しているという。
その他にも、マシンを使ったセルフの挽きたてコーヒーの味の濃度や、中食で使う米の硬さなども議論を繰り返し、沖縄仕様を追究してきた。
岸本氏はこういった味の改良について、その過程をオープンに話す。競合が激しくなる中、他社に真似されるリスクはないのだろうか。直接聞いてみると、メーカーなど取引先と共同で商品開発をする「チームマーチャンダイジング」の体制に自信があるゆえのことなのだと言う。
「デイリーメーカーとの長い歴史があって、今の体制があります。特に原価が高くなりがちな地区開発の商品は、原材料や製造工程、利益をいかに残すかなど、デイリーメーカーとの深い信頼関係を基に細かい調整を重ねることが必要です。私の話を聞いたとしても、そう簡単にできるものではないと思っています」
メーカー側の利益を確保しながら、満足のいく味や消費者の手頃感も両立させる。各社と議論を重ねてバランスを探り続けることで、沖縄ならではの商品群が生み出してきたのだ。
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