なぜ、鉄道会社は「子ども」に投資するのか 小田急の施策から読み解く長期戦略(1/3 ページ)

» 2025年12月19日 07時30分 公開
[土屋武之ITmedia]

 年末年始が近づくと、帰省などで子どもを連れて電車を利用する家族の姿が駅で目立つようになる。

 少子化が進む中、鉄道各社はこの「親子連れ」を将来の利用客と捉え、子ども向けの施策を強化してきた。中でも象徴的な事例として挙げられるのが、小田急電鉄による小児運賃の大幅な引き下げをはじめとした一連の取り組みだ。本稿では同社を中心に、鉄道業界に広がる各社の子ども戦略を読み解いていく。

小田急電鉄は小児用交通系ICカード利用時の運賃を全線50円均一に改定した(画像:筆者撮影)

衝撃の「小児運賃50円均一」 実は、経営にはそこまで痛手ではない

 小田急電鉄は2022年3月、小児用交通系ICカード利用時の運賃を全線50円均一に改定した。小田急線の始発駅から終点駅までの小児運賃は445円だったが、これも50円に下がった。通学定期券(小児用)も全区間1カ月800円に引き下げられている。

 これは期間限定のキャンペーンではなく、鉄道業界では初めての試みとなる半ば恒久的な値下げだ。同様の値下げ施策は、首都圏のバス会社などが夏休み期間などに限定して実施していた前例はあったが、継続的な取り組みとしては初めてだった。

 「思い切った施策」として業界内で注目を集めたが、実は鉄道各社における運賃収入全体に占める小児運賃の割合は微々たるもので、小田急電鉄でも1%以下にすぎなかった。それを値下げしたところで、経営に与える影響はほとんどないといえる。

 この小児運賃の値下げの施策は、単発で行われたのでもない。2021年11月に小田急電鉄が発表した、小田急沿線における子育て応援ポリシー「こどもの笑顔は未来を変える。Odakyu パートナー宣言」の取り組みの一つとして実施された。

小田急線車内に貼られている「子育て応援者ステッカー」(画像:小田急公式Webサイトより)

 他にも、駅構内への子供用トイレの設置、授乳やおむつ替えが可能なブースの設置、駅におけるベビーカーのレンタルなど、さまざまな方面から支援を拡充した。このような取り組みの目的は「子育てしやすい沿線環境づくり」に他ならない。

 ポリシー策定に先立って、2021年5月2〜30日に「子育て応援トレイン」を運行した。指定された列車内には、電車を利用する子育て層の気持ちや、周囲の乗客に知ってほしいおでかけ事情などを中吊りポスターとして掲出。また、1両を「子育て見守り車両」と名付け、車内床面まで装飾。日中運行中は「泣きだしてしまった子どもを温かく見守ってください」と協力も呼びかけた。

子育て見守り車両(画像:小田急電鉄プレスリリースより)

 これを発展させる形で、2022年3月12日から、一部を除く通勤型電車の3号車を「子育て応援車」に設定。利用客を限定するものではなく、子供連れでも乗車しやすい環境作りへの協力をステッカーなどでアピールしている。この施策は、2025年4月15日より、日中に運転される特急ロマンスカーにも広めた。ベビーベッドがあるトイレや自動販売機に近いことから3号車が対象となった。

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