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買い物金額の5%をクラブへ還元 ドコモとFC東京が描く「ファン参加型」事業の勝算

» 2025年12月25日 14時45分 公開
[武田信晃ITmedia]

 日々の買い物が、愛するクラブの「強化費」に変わる――。NTTドコモが、サッカーのJリーグと進める協業プロジェクト「チームになろう。」が、サポーターの間で広がりを見せている。

 ドコモは4月、Jリーグ全60クラブを応援する取り組みを開始。7月には首都圏支社とFC東京が新たなパートナー契約を締結した。ドコモショップやd払いを活用し、ファンとクラブ、そして地域をどうつなごうとしているのか? 現場のキーマンであるドコモのカスタマーサクセス部・金子尚史担当部長らに、その全貌とファン拡大の戦略を聞いた。

NTTドコモ カスタマーサクセス部・金子尚史担当部長(以下、筆者撮影)

ためたdポイントの5% 「クラブ強化費」として還元

 総務省が9月に発表した「移動系通信の契約数における事業者別シェア」によると、2021年3月時点でNTTドコモのシェアは36.9%だった。2025年6月には33.6%に減少している。

 同社の「2024年度決算及び2025年度の業績予想」では、営業収益は前年比1.2%増の6兆2131億円、営業利益は同10.8%減の1兆205億円の増収減益だった。力を入れているスマートライフ事業は順調に成長している一方、モバイル通信サービス収入は536億円の減収となっている。

 そんな中、ドコモは長期的な視野に立って、ブランドを好きになってもらうことで経営の安定化を図ろうとしているようだ。その一つとして2017年、Jリーグとトップパートナー契約を結んでいた。今回はさらに踏み込み、ドコモの各支店やドコモショップなど地域の各拠点が、協業・協賛先と手を取り合い、地域のチームやファンダムを盛り上げる「チームになろう。」を始めた形だ。

 各クラブを応援するべく「d払いxクラブ応援店」の拡大を進め、現在、全国で1万店舗以上まで拡大させている。「推しJクラブ応援キャンペーン」では、利用者が「dポイントクラブ」もしくは「d払いアプリ」のカードきせかえ機能で、推しクラブの画像に設定すると、ユーザーがためたdポイントの5%を、クラブの強化費として還元できるようにした。12月23日現在で約2117万円の応援金が集まっている。

推しJクラブ応援キャンペーン

 全国に約2000店舗あるドコモショップは、基本的にフランチャイズだ。キャンペーンを打つ際はドコモ側が全ショップに連絡して、関心を持ったドコモショップが手を挙げて参加する形を取っている。

 FC東京の本拠地である東京・味の素スタジアムでは、スタジアム横の広場にドコモがブースを構え、ノベルティを配ったり、ドコモMAXへの加入手続きのプロモーションをしたりしていた。ドコモMAXとは、データ利用量無制限の料金プランで、特典として、米プロバスケットボールのNBAやJリーグを配信するDAZNの見放題を、追加料金なしで提供している。ドコモが加入者増を狙うための切り札の1つだ。

 ブースでの取り組みでは、ドコモMAXの契約をしてもらうことが最終目的になるのか。金子担当部長は「FC東京を応援してサポーターを増やすための取り組みなので、今あるサポーターをすぐ取り込みたいという狙いではありません」と話す。

 ブース前は常に行列があったことから、その効果は高そうだ。ドコモユーザーも頻繁にはショップに足を運ばない。用事があってもオンラインで済ませるユーザーも少なくない状況だ。

FC東京の本拠地である東京・味の素スタジアムでは、スタジアム横の広場にドコモがブースを構えていた

 だが他のキャリアユーザーに向けての訴求で、この施策が意味を持つ。「ドコモはFC東京を応援していて、ノベルティを配っているのならのぞいてみよう」といったように「あらためて来店してもらうためのきっかけづくり」になるという。ショップからも好意的な反応が多いそうだ。

 効果を感じているのは、5%還元の「推しJクラブ応援キャンペーン」だ。金子担当部長は「アプリ内でバーコード周辺の画像をカスタマイズできるUIは好評です。日頃の買い物でポイントをためつつ、一部がクラブ応援につながるので高い評価をもらっています」と胸を張る。

 フランチャイズのロイヤリティや価値の向上も目指している。

 「地域経済の活性化にもつながると思っています。FC東京でいえば、『FC東京応援ドコモショップ』が首都圏支社管内で18店舗あり、いろいろな情報を発信しています。今後も、途切れることなく、ファンに喜んでもらえるキャンペーンやイベントを展開していきたい」(金子担当部長)

 首都圏支社が主導して企画を練るのは理解できる。一方で地元のクラブを応援するのならば、例えば、FC東京を応援する18のドコモショップに権限を委譲し、独自に企画してもらったほうが、より地元密着の店となるのではないか。

 「確かに今は、首都圏支社で企画を考え、応援店に展開してもらっています。今後は、店舗ごとに独自色を出していくのは、ありかなと思っています。ショップ店長の意見も聞きながら、考えていきたいです」(金子担当部長)

 人口減少によって新規顧客の獲得は難しい。「チームになろう。」は効果があると感じているか。

 「まずは、FC東京を応援しようというムーブメントを作ることが大切だと考えています。その先としてドコモのことも好きになってもらいたいです。他のキャリアからドコモに切り替えてもらえる存在になることを目指していきたい。長いスパンでの取り組みだと考えています」(金子担当部長)

 最終目標として60クラブ全てとの提携も見据えている。本社の下に支社、支店、ドコモショップを全国に持ち、地方クラブともドコモが直接話せるようになるのは大きな強みだ。このアセットを活用することで差別化を図り、ドコモとクラブの発展につなげようとしている。

ブース前は常に行列があった

クラブのデータを掛け合わせ 来場者増へ

 一方、クラブにとって何が魅力的なのか。一つはドコモが持っている位置情報や決済などのビッグデータだ。ドコモのコンシューマサービスカンパニーカスタマーサクセス部アライアンス戦略担当の大石望担当部長は「クラブ側は、スタジアムにいる方の年齢層、チケットを購入した人の性別、年代、購入枚数を把握できます」と説明する。

 「ドコモは、スタジアムやその周辺にあるdポイントの加盟店で買われた商品が分かります。そこにひもづいている位置情報やdアカウントなどの各種属性情報と、FC東京さまが保有するデータを掛け合わせることによって、細かな分析ができます。それを通じてクラブと一緒に、いかにして来場者を増やしていくかを検討しているところです」(大石担当部長)

 FC東京側は、協業をどう感じているのか? FC東京のマーケティング本部エリアプロモーション部の田中翔一朗部長は「その地域に属しているクラブが保有するデータと、ドコモさまのビッグデータを掛け合わせることによって、フットボールやFC東京が市民の生活にも関われるようになった感覚があります。意識せずともFC東京のエンブレムが目に入るような感じです」と話す。

 FC東京の存在が、自然と市民の日常に入り込んでいる。チームの存在が文化になる日も遠くはなさそうだ。

 ドコモと協業したメリットについてFC東京のパートナー事業本部事業部の山元ほるん氏は「パートナーシップを結ぶ際に、どうしても一方に比重が偏ってしまうことがあります。しかし、ドコモさまのほうから『そうならないようにします』という話が最初に出ました。バランスが良かったことは今でも感謝しています」と語る。

 他の施策でも「FC東京にとってどんなメリットをもたらすのか?」という議論をドコモ側からしてもらう機会も多いとのことで、そこに魅力に感じていると話していた。

 これに加えて田中部長は「地域文脈でいうと、FC東京は東京都全域がホームタウンという形でして、味の素スタジアムがある京王線沿線に多くのサポーターの方がいます」と話す。

 「都心部や東京の東側にサポーターが増える余地もあると思っています。都心部にあるドコモショップに応援店を作る取り組みは、いい連携活動になっています。今までありそうでなかった面白い取り組みになりそうだと、感じています」(田中部長)

ユーザー体験を向上 新規ファン獲得につなげる

 現在のスポーツ観戦では、スタジアムで観戦しつつ、スマホで配信されている中継の実況をイヤホンで聞くという習慣がある。スタジアムでは実況がされないため、耳で実況や解説を聞きつつ、現地の雰囲気を楽しむことでユーザー体験が上がるからだ。

 山元氏は、ドコモのスタッフとスタジアム周りを視察した際に、通信環境の整備に課題を感じたという。通信環境に課題があると、ライブ配信もキャッシュレス決済も快適には利用できない。

 ドコモが通信環境を改善すれば、ストレスのない配信を提供できる。5%の強化費によってチームが強くなることにつながれば、「チームになろう。」の意義も大きい。顧客体験の向上は、新規ファンの獲得と、その先の定着につながるはずだ。

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