RIZIN地方誘致に「必要な金額」とは? 榊原代表が若手実業家に示した“挑戦状”

» 2025年12月25日 15時45分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 茨城県が、地域活性化の新たな切り札として「格闘技」に注目している。2025年12月に茨城県つくば市で開催した「第1回 いばらきビジネス地方創生フォーラム」で、格闘技イベント「RIZIN」の榊原信行代表が、2026年に茨城県内でのRIZIN開催に向けた具体的なビジネスプランを提示した。それは単なる興行の誘致ではなく、地域も主体的にリスクを取り、収益も得る共創型のスポーツビジネスモデルだ。

 いばらきビジネス地方創生フォーラムを主催した「いばらき商工青年協議会」は、通常市への設置が多い「県商工会議所青年部」と、町村への設置が多い「県商工会青年部」が組織の垣根を越えて設立した団体。県内の若手実業家が市町村の垣根を越えて活動することで、地域経済の活性化と地方創生に向けた新たなビジネス創出を企図している。

 茨城県中から集まった若手実業家を前に、榊原代表がRIZIN茨城大会誘致のために“提示した金額”はいくらだったのか。

photo 榊原信行(さかきばら のぶゆき)RIZIN FIGHTING FEDERATION CEO、ドリームファクトリーワールドワイド代表取締役社長。大学卒業後、東海テレビ事業に入社。「K-1 LEGEND 〜乱〜」や「UWFインターナショナル名古屋大会」などのイベントをプロデュースする。1997年には「PRIDE.1」を開催。2003年にはPRIDEを運営するDSEの代表取締役に就任。2007年に売却するまで、「PRIDE」の躍進に大きく貢献する。2008年には「FC琉球」のオーナーとなり自ら経営に携わり、2009〜2013年にかけてはJFL(日本フットボールリーグ)の理事にも就任。2015年に自ら実行委員長として「RIZIN FIGHTING FEDERATION」を立ち上げる

RIZIN誘致に必要な金額とは?

 榊原代表はまず、自身の62年の人生経験、経営者としての経験からビジネスで大事にしている「5つの誓い」を提示した。

 1つ目が「野望を抱け!」だ。夢や目標ではなく「金儲(もう)けしたい」「人を感動させたい」という大きな野望を持つべきだとした。2つ目が「覚悟を決めろ!」だ。これは野村克也監督の「覚悟に勝る決断はなし」という言葉を参考にしたもので、野望を実現するための覚悟を決めることが不可欠だという。

 3つ目が「情熱を燃やせ!」だ。事業の継続には日々の悪戦苦闘が伴うものの、辛い時も苦しい時も情熱が全てを動かす。4つ目が「冒険に挑め!」だ。これは設定した目標以上には絶対に到達しないため、とてつもなく大きな野望を持ち、決められた道のない冒険に出る覚悟でチャレンジすべきだとした。

 そして5つ目が「絶対に諦めるな!」だ。諦めたらそこで終わりだが、情熱を持って覚悟を決め、大きな野望を抱いていれば必ず知恵は出るし、助けてくれる人も現れる。榊原代表は、「僕には特別な才能はない。でも全てに逃げずに真っ正面から向き合う覚悟で、ここまで一歩ずつやってこれた。この『5つの誓い』を茨城の皆と心の中に置いてチャレンジしたい。一緒にやるのかやらないのか。やる気があるんだったら、茨城のみんなと本気でやりたい」と呼びかけた。

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1億6500万円でRIZINは誘致可能

 この「5つの誓い」を前置きした上で、榊原代表は本題に入った。それが「RIZIN LANDMARK.○○ in IBARAKI」と題したビジネスプランだ。これは2026年に茨城県内で数千人規模のRIZIN大会を開催する具体的な提案──榊原代表からの“挑戦状”だった。

 榊原代表が提示したのは、興行主だけでなく、地域も主体的にリスクを取る共同興行モデルだ。茨城県側には地元の主催者となることを求め、RIZINに対する総合プロデュース費として1億6500万円の負担を要請した。この金額には選手の出場費やプロダクションコストを全て含んでいる。

 具体的な収益シミュレーションとして、5000席×平均単価2万5000円でチケット売り上げが1億2500万円、協賛セールスで3000万〜5000万円、行政支援で3000万〜5000万円、その他物販・周辺イベントで1000万〜2000万円を見込む。合計約2億円の売り上げに対し、RIZIN側への支払いは1億6500万円のため、成功すれば地域側に利益が残る計算となる。

 地域側の役割は、地域でのチケット販売、現地のイベントスタッフやスポンサー集め、ホテル手配、ケータリング一式の手配だ。また、RIZIN側が企画立案する演出プランと、指示に基づく音響・照明・特殊効果・舞台設営の機材の現地手配と設営も担う。

 RIZIN側の役割は、マッチメークと選手への対価の支払い、演出プランや映像制作、リング・競技運営備品の手配、レフェリー・ジャッジ・MC・ラウンドガールの派遣、広報宣伝の企画立案など、コンテンツ制作に関わる業務全般を担当する。

 収益配分は、こうだ。茨城県側が入場券販売権と、その売り上げ全て(券売手数料は除く)、協賛セールス媒体の3分の1とその売り上げ全て、大会当日にタイアップする地元飲食店の手配とロイヤルティを確保する。一方のRIZIN側は、協賛セールス媒体の3分の2とその売り上げ全て、大会の全世界での放映権・配信権とその売り上げ全て、RIZINオリジナルグッズの委託販売収益を確保する形だ。

 RIZINの商標は地域側が自由に使えるため、主体的なプロモーション展開ができる。「RIZIN LANDMARK.○○ in IBARAKI」の開催時期は2026年内。会場は茨城県内の数千人規模を収容可能な場所となり、開始時間は午後0時半開場、午後2時開始、終了予定を午後8時頃とした。

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茨城県で興行をやるべき地域のポテンシャル

 実は、このビジネスモデルは香川県で既に実証済みだ。RIZINは2025年3月30日に、高松市の香川県立アリーナで「RIZIN.50」を開催している。この大会ではRIZINは香川県から5000万円の支援を受け、残りを地元企業と住民が負担する形で開催した。1万人規模のアリーナで2億円を地域側が負担。榊原代表は「むちゃくちゃ儲かった」と明かす。

 榊原代表は茨城県のポテンシャルについて、「鹿島アントラーズや水戸ホーリーホックといったサッカー文化が浸透し、スポーツとの親和性が高い」と評価する。また、地理的性質でも、「東京の1400万人、神奈川の900万人、埼玉の740万人、千葉の630万人に囲まれている。ここからわずか5000人を集めるのは十分可能」と述べた。

 資金調達方法として、個人の自己資金、10人で1000万円ずつといった複数人による共同出資、投資計画を作成しての出資者募集、地方自治体への支援要請など複数の選択肢を提示。榊原代表は「地方興行は地域の活性化、スポーツツーリズムにつながる。今からならまだ行政の来年度予算に間に合う」と国や地方自治体からの助成金活用も訴えた。

 榊原代表は、「茨城で大会をやれば全国ニュースになる」とメディア露出の価値もアピールする。「1億6500万円でRIZINというIPを呼べるんですよ。一緒にやるかやらないか。野望を抱いて夢中になって走ってみるのも人生いいんじゃないですか」。集まった若手実業家たちに、実行委員会の立ち上げと具体的なアクションを促した。

香川大会で成功した「売り興行」のビジネスモデル

 榊原代表はアイティメディアのインタビューで、このビジネスモデルを「完全な売り興行」と説明。「高松市でのRIZIN.50は、このモデルで成功した」と振り返る。

 売り興行とは、音楽業界などでは一般的な興行形態で、興行権を購入した側がチケット販売などのリスクを負う代わりに、収益化の主導権も握る仕組みだ。格闘技界でこの手法を採用するケースはまだ珍しい。榊原代表は起業する前、イベントの企画などを手掛ける東海テレビ事業(名古屋市)でK-1名古屋大会の開催に携わり、この方式を経験していた。

 香川大会では、県が直接興行を打てないため、県知事を含む行政が全面的にコーディネートし、窓口となる地元イベント会社を設立。この会社が興行元となり、RIZINから興行権を購入する形をとったという。行政からは5000万円の支援金が投入された。これは新設されたあなぶきアリーナの開設記念事業という位置付けだったという。

 榊原代表は香川大会について、「過去に例がなく、四国という立地からも本当にチケットが売れるかどうか不安だった。しかし蓋を開けてみれば1万枚のチケットが完売だった」と振り返る。

 その要因については、「RIZINというIPは全国区で認知度が高い。ただ、地方では実際に会場で観戦する機会がなかった。生で観戦したいという層が大量に存在していた。その潜在需要を掘り起こすことができたのではないか」と分析する。

茨城県知事「若手実業家中心に、ぜひ実現して欲しい」

 香川大会は本大会である「ナンバーシリーズ」として開催し、タイトルマッチも組んだ。そのため選手のファイトマネーを上げることができ、1万人規模のアリーナで地域側が2億円を負担する形となった。

 「香川大会では集客への不安からナンバーシリーズにし、有名選手も呼びました。茨城では一都三県からの流入が見込めますから、そこに不安は感じていません。その分、地元選手や旬の選手などを主体にして構成し、ファイトマネーを減らすことで地域負担を1億5000万円(税別)に軽減できるのではと考えました」(榊原代表)

 この日のイベントには、大井川和彦・茨城県知事も参加した。大井川知事は、アイティメディアの取材に対し「驚いてはいますが、榊原代表が前向きに考えてくれていてすごくうれしいです」と話す。「いばらき商工青年協議会は2025年2月にできたばかりの組織。県内の若手実業家が企画の中心となって、RIZIN茨城大会をぜひ実現してほしい」とエールを送った。

 果たして2026年にRIZINの茨城誘致は実現するのか。5000人規模で1億6500万円という金額。興行で地方創生を企画する経営者や自治体関係者にとって、大いに参考になるだろう。

photo イベントに参加した大井川和彦・茨城県知事

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