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ソニー平井元CEOが語る「リーダーの心得5カ条」 若くして昇進した人は要注意IQよりEQ(1/2 ページ)

» 2025年03月25日 08時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

 当時、赤字が続いていた現ソニーグループを再生させた平井一夫元社長兼CEOが3月16日、早稲田大学で「変革をリードするモチベーショナル・リーダーシップ」と題して講演した。

 早稲田大学ビジネススクール(WBS)の部活である「WBSものづくり部」と、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター(WBF)のイノベーション戦略研究部会が主催したイベントだ。WBSものづくり部の顧問を務める早稲田大学大学院経営管理研究科の長内厚教授は「私も元ソニーグループ出身で、平井氏流のリーダーシップを若い世代に伝承したかった」と話す。

左から早稲田大学大学院経営管理研究科の長内厚教授、立命館大学ビジネススクールの水野由香里教授、平井氏、九州大学ビジネススクールの吉村洋一教授、早稲田大学大学院経営管理研究科の佐藤克宏教授

 平井氏は、ビジネスリーダーを目指す学生や卒業生を前に、リーダーとなるために必要な心構えを、熱っぽく語った。

 平井氏は「求められるのはIQ(知能指数)ではなく、高いEQ(心の知能指数。感情を理解し管理する能力を指す)に基づくリーダーシップ」だといい「大事なことは、正しい人間である人がリーダーになること」だと強調。社長時代に「タウンホールミーティング(経営者との対話集会)などで現場に足を運び、心を込めて、腹落ちしてもらうまで何度も社員と対話を重ねた」と振り返った。

 平井氏が自ら実践し、体験を通じて会得したビジネスリーダーに必要な要件とは?

平井一夫(ひらい・かずお)1984年にCBSソニーに入社。1996年にソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカのエグゼクティブ・バイス・プレジデントになり、1999年に同社社長に就任。2000年にソニーコンピュータエンタテインメント社長、2009年にソニー(現ソニーグループ)のエグゼクティブ・バイス・プレジデント。2011年に副社長。2012年に社長兼CEOに就任して、赤字だったソニーを黒字に転換させる業績を挙げるまでに再生させた。2018年に会長。2019年に会長を退任し、シニアアドバイザー。2021年に一般社団法人「プロジェクト希望」を設立し代表理事に就任。64歳。東京都出身

「超競争」のビジネス環境 リーダー「5カ条」の心得とは?

 平井氏は「超競争」ビジネス環境と言われる中で、あらゆる職種やビジネスにおいて変革が求められていることを指摘した。「この10年はデジタル、ネットワーク、さらにはAIによるインパクトが大きい。新しい技術が出てくるたびに常に変革を求められています」と話す。

 「いろんなビジネスで、新規や異業種からの参入が増える中、競争していかなければならなくなっています。ソニーがホンダと組んで、バッテリーEVを出すと誰が想像したでしょうか」

 こうした中、企業は、自社の社員に誇りと自信を感じてもらいながら、高いモチベーションを保ち、同じゴールに向かって協力して進んでもらわなければならないという。そのためには(会社の方針について)オープンに議論する機会が与えられ、一定のリスクをとり、物事を前に進めていかなければならないと指摘した。

 ソニーという会社の存在意義については「私がCEOとなった2012年に、エレクトロニクス、エンターテインメント、金融の事業を展開することで、『世界に感動を提供すること』とコンセプトを決めました。これは社内外に定着し、いまのソニーの経営にも引き継がれています」と述べた。

 平井氏は、リーダーシップを発揮しなければならない立場と、リードされる側の両方の視点でリーダーシップを考えてもらいたいと述べた。その上で、社員に高いモチベーションを持って働いてもらうための「5カ条」を以下のように挙げている。

  1. 自らが高いEQに基づいた正しい人間であること
  2. 高いIQを持ったマネジメントチームを組成する
  3. パーパス、ミッション、ビジョン、バリューを定義する
  4. 戦略を立案する
  5. 現場に行って社員と対話する

 リーダーはいかなる状況でもプラス思考で、リーダーシップを発揮できるようにすることが肝心だと強調。「中でも1番目が最も重要です。長い間マネジメントをしてきましたが、正しい人間でなければ、他をいくら頑張っても成果が出ない。それくらい大事です。順番を間違えてはいけません。これがリーダーシップマネジメントの原点です」と訴えた。

EQの高いことが一番大事

 「リーダーになる人に必要なのは、『正しい人間』になることです。リーダーとしての要件を満たした人とは、言い換えれば人徳がある人です」

 平井氏はエン・ジャパンの8000人に聞いた「理想の上司」調査の結果を挙げ、昇進した人と、その部下との間に意識のギャップがあることを指摘した。

 「会社でプロモーションされる人は、仕事ができるから昇格されます。一方、上司に対して社員が期待しているのは、仕事の実績ではなく『その人が人間として尊敬できるかどうか』なのです。このため昇格した上司と、その上司につかえる社員との間にはギャップがあることを認識すべきです。上司に期待することは何か? と聞いたアンケートで分かったことは、意見をよく聞いてくれて、公平公正な判断ができることが上位に来ています。上司に対しては仕事の実績を求めていません」

 「俺は部長だから偉いのだ。会社に40年も長く勤めているから偉いのだ。こう思った瞬間にアウトです。年功ではありません」

 IQも大事ではあるものの、それよりも必要なことは人間としてリスペクトされるかどうかだという。人間的にリスペクトされている人が、たまたま部長とか社長とかという肩書を持つから、さらにパワーアップするのだ。そうではなくて、単に実績のある部長だから「俺の言うことを聞け」といった瞬間、社員のモチベーションは上がらなくなると指摘。人間としての言動の重要性を強調した。

 「意見をよく聞いてくれて、公平な判断ができる。そんな上司が来れば、社員のモチベーションは上がります。『この上司のためには何が何でも頑張ろう』と思って能力の120%を発揮して仕事をしてくれます。そうでないと『まあ、適当にやっておけばいいか』となり、能力の80%しか仕事をしてくれません。約11万人の社員がいるソニーの場合、120%で仕事をするのと、80%でするのとでは大違いになります」

当日は大勢の受講生が詰めかけた
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