ハンコで国内トップメーカーのシヤチハタが、2025年に創業100周年を迎える。一企業の歴史として100年は大きな節目ながら、同社の舟橋正剛社長は「珍しいことではありません」と謙虚に語る。舟橋社長は1997年の入社以来「ハンコ」への危機感をブレずに持ち続け、さまざまな「脱ハンコ」の試みを行っている。
前編の記事では、その代表的な例としてデザインコンペの実施や、そこから生まれたユニークな商品について解説した。後編の今回は、そうしたB2C商品以外で、次の100年を担うべく柱として舟橋社長が期待を寄せるものについて、話を聞いた。
前編で触れたB2C商品と合わせて、舟橋社長が力を入れていると話すのが産業領域だ。具体的には、皮革や木材、金属にプラスチックといった特殊な素材に対しても印をつけられる工業用インキが挙げられる。製造現場で油がついた機器に作業終了の印を付ける、ロット番号を付ける、といった用途で活用が進んでいるという。
「当社はハンコ用のゴムを練る、インキを作る、さらに金型の成形など、素材を実際に触って試して、組み合わせながら最終的に商品としてお客さまにご提供するビジネスモデルです。そう考えると、商品はハンコである必要は全くありません。中でも工業用インキは使用頻度が少なく受注ロットが小さいことから請け負えるメーカーがあまりないようで『シヤチハタさん、できない?』と相談を多く受けています」
2020年に提供を始めた「Shachihata Cloud」(シヤチハタクラウド)にも期待を寄せる。シヤチハタの電子決裁の歴史は古く、実は開発をスタートしたのは1990年代。1995年には電子印鑑システム「パソコン決裁」を発売している。当時は「Windows 95」が発売した頃で、まだ今のように1人1台PCを持つ時代ではなかった。しかし「紙でやっていることは必ずデジタルに置き換わる。そのとき、もっと便利に当社の印影を使ってほしい」(舟橋社長)という思いで開発をスタートしたという。
ただ、時代がまだ早すぎたのか、売り上げは低空飛行が続いた。舟橋社長によると、売り上げは1億〜2億円程度の横ばいで、30年近く赤字が続いていたという。そんな中でも新たなOSやデバイスが出れば対応するためのアップデートを行い、クラウド化やサブスクリプションへの対応も地道に行っていった。売り上げがやっと上向きだしたのは、皮肉にも「脱ハンコ」が叫ばれる大きなきっかけとなったコロナ禍だった。
コロナ禍では各社が出社規制などの措置を講じたことで、押印業務の見直しも進み、シヤチハタのハンコ関連ビジネスは従来比で約1割マイナスとなった。一方、シヤチハタクラウドをコロナ対策として期間限定で無料開放し、広告も積極的に打ったことで、認知が高まり利用数が増加。現在、デジタル関連の売り上げは年間15億円を狙えるまでに成長しているという。
そんなシヤチハタクラウドで意識している点は、あくまで各社がすでに確立しているビジネスプロセスに逆らわず、戸惑いを生まないようにすること。コンセプトにも「BPS(ビジネスプロセスそのまんま)」を掲げる。
「デジタル化によって、お客さまが『以前より面倒になった』『戸惑うようになった』となっては、なかなかDXが進みません。従って、シヤチハタクラウドではいかにアナログで円滑に進んでいたものを、そっくりデジタルに置き換えて便利なままにできるか。極論、紙がデジタルになっただけ、といった使い勝手を目指しています」
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