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「日本の決済手段はバラバラすぎた」 Visa日本法人社長が語る“世界標準化”への野望新春トップインタビュー

» 2024年01月11日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 コロナ禍を経て日本のキャッシュレスは大きく進展した。コード決済などが生活に定着しつつある中、現在急速な普及が始まっているのがタッチ決済だ。これは、カードを交通系ICのように“かざして”決済できる機能で、海外ではデファクトスタンダードになりつつある。

 国内ではここ数年で普及が進み、新規発行されるクレジットカードのほとんどはタッチ決済に対応しており、店舗側もチェーン店を中心に対応が進みつつある。さらに電車やバスなどの交通系についても試験的な対応が進んでおり、カード1枚あれば移動から日常の買い物まで全てタッチで済ませられる状況が近づいてきている。

 タッチ決済は各国際ブランドが利用できるが、国内において最も積極的に推進しているのがビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)だ。2023年4月1日に社長に就任したシータン・キトニー氏は、「日本の決済エコスステムは、最もスマートで最もパーソナルなものにならなければならない。今後5年間で必ずそれを実現する」と話す。

 Visaが考える日本戦略とはどのようなものなのか。シータン・キトニー社長に聞いた。

ビザ・ワールドワイド・ジャパン シータン・キトニー社長(撮影:沖島悠希、以下同)

日本の決済手段はバラバラすぎた

――経産省によると、22年の日本のキャッシュレス決済比率は36%に達しました。そしてそのほとんどをクレジット(30.4%)が占めています。諸外国の状況も踏まえ、この状況をどうご覧になっていますか。

 日本のキャッシュレスの進み具合は目覚ましいものがある。現在は約40%となっているが、ほんの2〜3年前にはこの数字は非常に低かった。日本の決済市場が細分化されていたことが、その理由の一つだろう。数多くの会社が違った電子決済方法を出してきたが、これは消費者から見ると選択肢があり過ぎる状態だった。

 加盟店はいろいろな決済方法を全部そろえなくてはならず、維持するにはかなりのコストが発生する。それぞれの決済は、ほかと微妙に違っていて基準も違う。ユーザー体験も一貫していない。それが消費者にも混乱をもたらしていた。消費者からすると「どれか一つでOKだ」という自信が持てない状況が続いてきた。

 しかし過去2〜3年間で標準化が加速した。タッチ決済のようなグローバルにおいて使われている決済方法が効率的に利用できるようになった。日本市場の素晴らしさは、世界標準に向けて業界として歩みをそろえて動いてきた点にある。これによって、私たちの狙いへ向けて大きな跳躍ができた。

 Visaはこういったものの基盤を作ってきた。カード発行会社も加盟店も、みんなが一緒に旅路が続けられるよう基礎を築いてきた。こうした取り組みによって、次世代のキャッシュレスも作り上げようとしている。現在40%程度のキャッシュレス比率だが、今後数年間で、50%、60%、70%とかなり早く進んでいくだろう。

――日本では現在も決済手段が乱立しています。店頭でも複数の決済手段があり、消費者も店舗も混乱しています。これらは今後、収斂(しゅうれん)されていくべきなのでしょうか?

 間違いなくそうだ。今現在、収束は起きていると思う。グローバルな業界標準が採用されていくにつれて、決済の収斂が加速していくだろう。それによって、加盟店にとっても消費者にとっても、一貫した体験ができるようになっていく。

 重要なのは、体験に一貫性があり、何が期待できるかが一貫していることだ。一つの決済手段を持っていれば、どこでも使える、どこで使っても同じ体験が得られる。それがVisaが目指している世界だ。

Visaは「どこで使っても同じ体験が得られる」決済手段を目指すという

――タッチ決済において交通系ICへの導入を進めています。日本独自の非接触ICによる決済手段が、グローバルスタンダードに収斂していくステップだと考えていいのでしょうか?

 タッチ決済の交通系への導入は、日本が一貫したイノベーションを取り込む際に、業界全体として変わっていけるいい例だと思う。タッチ決済が本当に採用されるようになったのは過去3年くらいだが、すでに対応端末の数は200万カ所、カードは1億枚を超えた。取引頻度を見ると、現在4件に1件がタッチ決済だが、近々3回に1回になろうとしている。

 交通系は新たなタッチ決済の例だ。買い物で使った同じカードで公共交通にも乗れるのが、一貫したユーザー体験をもたらしている。

 タッチ決済は、最初は小額決済だったが、次第に利用金額が大きいものにも使われるようになってきている。一貫性があるユーザー体験、質が高いユーザー体験、迅速でシームレスでどこでも同じ体験ができる。こうした体験を重ねることで、加盟店も消費者もこの決済を利用したいと思うようになるはずだ。

将来、タッチ決済に統一できる?

――現在のタッチ決済の国内普及状況をどう評価していますか。QRコード決済、交通系IC決済など、さまざまなものがありますが、将来、タッチ決済に統一されていくのでしょうか?

 30年前に日本で非接触型が登場したとき、それは日本にしかないユニークなものだった。当初は少額の決済に向けて考案されたものだ。そのため、日本においてタッチ決済は苦戦するのではないかと懸念していた。

 タッチ決済を「少額決済にしか使わないものだと思ってしまうのではないか?」「ほかの領域まで広げていくのに苦労するのではないか?」と思っていたが、そうではなかった。現在は、タッチ決済の利用先が、少額の小売り以外のあらゆる日常決済に広がっている。通常の小売以外にも広がっている。どんな人にも全ての支出で使われるようになっていくだろう。

 現在日本にはさまざまな決済方法があるが、支払い方法としてはタッチ決済がメインの決済方法となると考えている。

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