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ソニー平井元CEOが語る「リーダーの心得5カ条」 若くして昇進した人は要注意IQよりEQ(2/2 ページ)

» 2025年03月25日 08時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]
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若くして昇格・昇進した人は要注意

 スポーツの世界でも「名選手、名監督にあらず」といわれる。結果を出せる監督といわれる人は、過去の実績は置いておき「チームをまとめるにはどうしたらよいか」とマネジメント重視に切り替えているという。「そうでない監督はいつまでもホームラン王の武勇伝に頼ってしまい、チームはまとまりません」と話す。

 「ぜひとも勘違いしないでもらいたいのが、若くして実績を上げてプロモーションされた方です。残念ながらこういう人が(ギャップのあることが)理解できなくて、俺は実績があるから部長になったのだと思ってしまう。その瞬間に、もっと出世されると思われていた人が、そこから伸びなくなってしまうケースがあります。このためリーダーは、EQの高さを求められることを十分に認識しておいてもらいたい。これがないと、社員はついてきません」

 「社員は(トップに対して)完璧なマシーンを求めていません。意見を取り入れて間違ったら責任を取る勇気。分からないことがあったら、教えてもらう勇気。知ったかぶりをしないことです。新しいことをやってみて間違ったら『ごめんなさい』と言って、早めに軌道修正することが肝心です。リーダーであるためには、この勇気と自信が求められます」

「リーダーであるためには、勇気と自信が求められます」と話す平井氏

「腹落ちするまで説明」

 平井氏がプレイステーション事業を率いていた時期に、ディスクからネットワークに切り替える大変革を進めた。平井氏は2006年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の社長に就任。2011年にはソニーの副社長、2012年に社長兼CEOとなった。この間、プレイステーション事業は大きな進化を遂げ、ネットワークサービスへの移行が加速したのだ。現在のデジタル・クラウド主流の流れは、この時期に大きく形作られたといっていい。

 平井氏は「この時に、どうして変えなければならないのかを、社員が腹落ち(納得)するまで、繰り返し現場に出向いて説明しました」と明かす。

 「重要なのはハートで語ることです。よくあるのが、説明するときにスタッフが書いた原稿を棒読みすることです。上から目線で原稿を読むだけだと、社員から見るとパッションがないように感じられてモチベーションが下がります」

 「(プレイステーションの変革のときのように)大きな変革をする際には、プラス面だけでなくマイナス面もしっかりと説明することが大事です。例えばネットワークに切り替えた場合に、ディスクを保管する倉庫が必要なくなり、物流も要らなくなります。そうした場合、そこで働いていた従業員はどうするのか。こういうマイナス面についてもきちんと説明することが求められます」

 平井氏の場合、プラス面は3割、マイナス面の説明は7割ほどするようにしていたという。「社員からみれば、プラス面は言わなくても分かっているので、聞きたいのはマイナス面なのです」と説明した。

 「ソニーの社長時代は、6年間で70回ほど社員を前にしたタウンホールミーティングを開きました。『あの社長はまた来て説明している』といわれるくらい、繰り返し説明しました。ミーティングでは何を聞いてもよいことにしました。それでも特に大きな反対がある場合は、何度も説明して地ならしをする必要があります」と、話し合いの重要性も強調した。

 加えてグローバル企業には「自分の物差しでなく視野の広さが求められます。トップには自社をアピールする能力が求められ、英語で説明することが必要で、会社をPRしていかなければなりません」と指摘した。

 「米国企業のCEOはテレビの経済チャンネルなどにもどんどん出演して、自社の数字や商品のことをよく知っていてアピールしています。事前に質問などはもらえないので、全てライブで答えなければなりません。日本企業のトップはあまり生放送には出ませんが、米国企業のトップは出演して質問に答えるなど、アピール力があります」

社員目線に立った経営

 平井氏は、ソニーが赤字で苦しんでいた2012年に社長に就任。黒字に転換して最高益を稼ぐ会社にするなど、再生の立役者となった経営者だ。その原動力となったのが、平井氏が常に念頭に置いていたEQを大事にする「社員目線に立った経営」だった。平井氏が重視したのは、徹底的な対話を通じて社員のモチベーションを高めることだ。

 平井氏は社長就任時に、赤字続きで落ち込んでいた会社全体に「この社長となら一緒にやっていこう」という雰囲気を出すことに成功し、業績は大きくターンアラウンドすることになった。

 変化の激しい時代に、何をモチベーションにしていけばよいのか。迷える若い世代にとって、平井氏の豊富な経験に裏付けられたリーダー論は、重い意味を持つ。

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