格闘技イベント「RIZIN」が近年、地方での興行開催に力を入れている。2021年11月と2022年7月には沖縄サントリーアリーナで大会を開催。2024年2月には佐賀市のSAGAアリーナで「RIZIN LANDMARK 8 in SAGA」を実施した。さらに2025年3月には香川県高松市のあなぶきアリーナ香川で「RIZIN.50」を開催するなど、地方都市での大会を年1回程度のペースで開催してきている。
2025年6月14日には、札幌市の真駒内セキスイハイムアイスアリーナで「RIZIN LANDMARK 11 in SAPPORO」を開く。香川大会に続く今年2回目の地方大会であり、いかにRIZINが地方に注力しているかを表している。2023年6月の「RIZIN.43」に続く2度目の札幌大会だ。
2回目となる札幌大会はどのような経緯で実現したのか。地方大会を運営することの意義や、興業の狙いについて、RIZINの榊原信行代表(榊は正確にはきへんに神)に聞いた。
榊原信行(さかきばら のぶゆき) RIZIN FIGHTING FEDERATION CEO、株式会社ドリームファクトリーワールドワイド代表取締役社長。大学卒業後、東海テレビ事業株式会社に入社。「K-1 LEGEND 〜乱〜」や「UWFインターナショナル名古屋大会」などのイベントをプロデュースする。1997年には「PRIDE.1」を開催し、成功に導く。2003年にはPRIDEを運営するDSEの代表取締役に就任。07年に売却するまで、「PRIDE」の躍進に大きく貢献する。08年には「FC琉球」のオーナーとなり自ら経営に携わり、09〜13年にかけてはJFL(日本フットボールリーグ)の理事にも就任。15年に自ら実行委員長として「RIZIN FIGHTING FEDERATION」を立ち上げる。近著に『負ける勇気を持って勝ちに行け! 雷神の言霊』(KADOKAWA)(撮影:河嶌太郎)――6月14日には札幌市でRIZIN LANDMARK 11 in SAPPOROを開催します。RIZINにとって地方大会はどういった位置付けなのでしょうか。
RIZINの地方大会は多くはないのですが、年1〜2回くらいは地方都市で開きたいと考えています。それはやはり、新たなファンの掘り起こしにつながるからです。地方でRIZINを現地観戦した方々が、その後の大会をペイ・パー・ビュー(PPV、有料コンテンツに料金を支払って視聴するシステム)で観戦するようになる。ファンとの距離を縮めることによって、そうした親近感と広がりを期待しています。
また、地方の選手たちにとっても、自分の地元で試合をすることには特別な意味があります。皆が「一度は地元で戦いたい」「戦う姿を家族や友人に観てもらいたい」という思いを持っていますし、それが実現できる場を提供したいと考えています。そして、これはどんなスポーツでも同じですが、子どもたちが実際に選手たちと触れ合ったり、試合を生で観たりすることは、将来のファンの育成や競技の普及にとって非常に大切なことです。
――地方で大会を開くことの意義について、どのように考えていますか。
例えばプロ野球のキャンプが沖縄で開催されるようになってから、沖縄の野球のレベルが上がりました。それは、子どもたちがトップアスリートのパフォーマンスを間近で見て、「自分もああなりたい」と憧れるからです。画面越しだけではなく、実際にその場に行って体験できる機会を地方に作ることは、将来に向けた大切な種まきになると考えています。
もちろん、地方で大会を開催するとなると、選手やスタッフの移動や交通、宿泊費など、多くのコストがかかります。関東圏で開催した方がはるかに経済的ですし、人口の問題もありますから東京でやった方が同じ内容でもファンに来ていただける確率が高いです。しかし、それでもできる限り地方に出ていきたい思いがあります。RIZINは大都市圏だけのものではなく、格闘技ファンや興味を持つ方が日本全国に多くいるからです。
RIZINという大きな規模の総合格闘技団体だからこそ、他の団体がなかなかチャレンジしない地方開催にも挑戦していきたい。そういう思いで取り組んでいます。
――札幌大会を開催した経緯について教えてください。
札幌で大会を開催するにあたっては、やはり北海道出身の選手たち、軸になる選手がいることが大きな理由の一つです。その地域にゆかりのある選手がいることで、地元の盛り上がりや関心も高まりますし、開催する意義もより強くなります。
また、その地域を挙げて応援してくれるジムがあったり、地元放送局が協力してくれたりするなど、地域全体で大会を支えてもらえる体制が整っていることも重要なポイントです。今回も北海道文化放送(UHB)が広告宣伝やプロモーションに協力してくれていて、テレビCMを流してもらうなど、地元メディアと連携しながら大会を盛り上げています。
――UHBは協賛という形で参画しているのですか。
協賛というよりは、広告宣伝やPR・プロモーション面での協力をしてくれています。テレビCMをはじめ各種情報番組やローカルニュースを活用しての広報宣伝をお願いしています。北海道は格闘技熱が高い地域でもありますし、そういった地元の熱量も開催の後押しになっています。
また、スポーツツーリズムの観点も大きいです。RIZINファンが観光を兼ねて札幌まで観戦に来てくれる可能性が高い土地柄ですし、地方で大会を開催するうえで、観光とセットで楽しめるのは大きな魅力です。
――観戦者向けの観光ツアーも組んでいますよね。
はい。当社が公式で観戦ツアーを企画し、JJ tourという旅行会社が実施しています。ツアーはJAL利用のパッケージで、出発地は東京・大阪・名古屋・福岡・北海道・沖縄などを用意しています。また、RIZINファンクラブ「強者ノ巣」や「RIZIN 100 CLUB」会員向けにも、先行受付や特典付きのツアーを用意しています。
これらは大会チケットや航空券、宿泊に加えて、公開計量や前夜祭、選手との交流イベントなど、特別な体験ができる内容になっています。RIZINは年間9、10大会ほど開催していますが、毎回同じさいたまスーパーアリーナだけでは面白くないですし、RIZINをきっかけに全国各地を旅してもらえたらうれしいですね。
――地方開催では、プロバスケットボールのBリーグで使用している施設を活用する機会が多いのも特徴です。
近年は地方にも新しいアリーナ施設がどんどんできてきていて、私たちにとっても追い風になっています。例えば2021年11月と2022年7月に沖縄大会を開催できたのも、Bリーグ琉球ゴールデンキングスのホームである「沖縄サントリーアリーナ」ができたことが大きなきっかけでした。
今年もまだ発表していない地方大会がありますが、Bリーグの普及が地方都市でのアリーナ建設につながり、RIZINが地方に進出するうえでの機会創出になっています。
2024年2月の佐賀大会も、佐賀市に「SAGAアリーナ」ができたことが開催のきっかけになりました。今後もこうした新しいアリーナを活用しながら、各地で大会を開催していきたいと考えています。
――Bリーグ普及によって新しいアリーナ施設が全国各地に作られ、それが格闘技に限らず、地方興行開催にもつながっているわけですね。
アリーナ施設は、格闘技のようなセンタースポーツ、会場の中央で実施するスポーツを観戦するには最適なつくりになっています。Bリーグでの使用をメインに考えて建設されたアリーナはセンタースポーツ用に縦型に設計されているので、どの席からでも見やすいのが特徴です。
施設も2021年3月にできた沖縄市の沖縄サントリーアリーナや千葉県船橋市に2024年4月にできた「LaLa arena TOKYO-BAY」など、全国各地に新しいアリーナがどんどんできています。そういう意味でも、RIZINにとって非常に相性の良い施設が増えていると感じます。
また、Bリーグは年間の試合数がそれほど多くないので、年間52週のうち全ての週末が試合開催で埋まるわけではありません。こうした空いている土日を、私たちRIZINがうまく活用できるとありがたいですね。
――こういったアリーナで地方大会を開催する場合、どれくらいの収容人数があれば採算が取れるのでしょうか。
やはり1万人くらいのキャパシティーがあると理想的です。3月の香川大会の会場となったあなぶきアリーナ香川も、まだBリーグのチームはできていませんが、将来的な活用を見据えて設計されたアリーナです。1万人規模の収容が可能で、実際に舞台や設備を組むと7000人から8000人くらいの動員になりますが、そのくらい入れば十分だと思っています。
――5000人規模のアリーナだとやはり少ないのでしょうか。
5000人規模でも大会を運営すること自体は可能です。ただ、プロダクションコスト自体は収容人数によって大きく変わるものではないので、選手のファイトマネーの調整などで対応することになります。いずれにしても、こうした新しいアリーナが各地にできているのは、私たちにとって非常にありがたい状況です。
――そういう中で、PPVの収入も重要になってくるわけですよね。現地の観客が7000〜8000人でも、PPVをしっかり販売できれば成り立つということでしょうか。
そうですね。PPVも毎回、何十万件も売れるわけではありません。ただ、ナンバーシリーズ(「RIZIN.50」など連番が付くメインの大会)やランドマークシリーズ(地方や海外で開催するRIZINブランドの大会)、そして5月31日に開催した韓国大会などの大会でも、たくさんの数のPPVの販売実績が上がるようになってきました。
こうした大会ごとの売り上げを積み重ねていき、大きな山となる大会を年に何度か作るのが現状のスタイルです。これまでは夏と大みそかがそのピークでした。今年は5月4日に東京ドームで開催した「RIZIN 男祭り」のように、過去のピーク時以外でも盛り上がった大会を展開できました。
――RIZINは今後も地方都市での開催が続くと思います。開催地の基準は所属選手の出身地が大きく影響するのでしょうか。
選手の出身地は確かに一つのファクターではありますが、それだけではありません。まずは、開催できるアリーナなどの施設があるかどうかが大きなポイントです。また、選手個人というよりも、その地域に格闘技ジムや、RIZINが大会を開催するときに協力してくれるプロモーション関係者がいるかどうかも重要です。地元でしっかりとプロモーション活動を展開してくれる人たちがいるかどうかは、成功の鍵になります。
また、高松市の大会のように、行政が経済的な支援をしてくれるケースもあります。地方自治体が「ぜひRIZINを呼びたい」と資金を出して誘致してくれる場合には、私たちも非常に開催しやすくなります。こうしたさまざまな要素を総合的に判断して、今後も地方の開催地を決めていきたいと考えています。
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