多くの企業で生成AI導入が進む一方「現場に定着しない」「具体的な成果が見えにくい」といった課題も生まれている。AIポータルメディア「AIsmiley」を運営するアイスマイリー(東京都渋谷区)とモバイル市場調査機関のMMD研究所(東京都港区)が実施した調査によると、生成AI導入が「明確にうまくいっている」と回答した企業は14.0%だった。
生成AIを個人の業務効率化ツールで終わらせず、全社規模での利用を推進し、競争優位につなげるには何が必要なのか。生成AI活用に取り組む住友化学、LINEヤフー、ディップの3社に話を聞くと、見えてきたのは「活用すること」にとらわれすぎない考え方だった。
「生成AIが最適解とは限らない」「あえて『AI』と声高に言わない」──カンファレンス「AI博覧会」のパネルディスカッションより、3社の見解をQ&A形式で紹介する。
本記事の内容は、アイスマイリーが8月26〜27日に開催した「AI博覧会」のセッション「AI導入はなぜ『進む企業』と『止まる企業』に分かれるのか」を基に構成したもの。
──「生成AIに任せるべき領域」と「人が担うべき領域」の線引きをどう考えているか?
住友化学 DX推進室 DX・IT戦略 奥野弘尚氏: 当社では「まずは生成AIに投げてみる」というスタンスを推奨している。一方で、絶対に外せない原則として「ヒューマン・イン・ザ・ループ」(Human-in-the-loop)を掲げ、生成AIの出力に対する最終確認や意思決定は、必ず人間が行うというルールにしている。
さらに重要なのは「全ての業務において生成AIが最適解とは限らない」という点だ。生成AIより、ルールベースのプログラムや従来の機械学習、既存ITシステムの方が適しているケースも多い。そのため、既存の業務に生成AIをただ当てはめるのではなく「その業務の本来あるべき姿は何か」をゼロベースで見直し、プロセス全体を再設計して意思決定することこそが人間の重要な役割だと考えている。
LINEヤフー CTOドメイン 香川美菜氏: 全てのタスクが生成AIに代替されるわけではない。現在あるプロセスに単に生成AIを差し込むだけでは、十分な成果を出すのは難しいのが現実だ。
開発領域など生成AIが得意とする工程では活用が大きく進んでいるが、本質は単なる置き換えではなく「生成AIと人間が協働して進化させた新しい業務プロセスを作ること」にある。どの部分に生成AIを活用し、人間がどう品質を高めていくかを設計し続ける姿勢が欠かせない。
ディップ BizOps本部長 進藤圭氏: 当社では求人記事の作成などにおいて生成AIの活用を進めているが「一次情報」(インプット)と「相手への伝え方」(アウトプット)は人間にしかできないと考えている。生成AIは何でもそれらしく正論をアウトプットしてくれるが、取材現場で直接見聞きした生の一次情報は現場の人間しか持っていない。
また、AIが生成した提案をお客さまに届ける際「なぜこれが最適なのか」を説明し、背中を押すエモーション(感情・納得感)を伝える役割は人間に残る。インプットの選定と、最後のアウトプットの伝達という“両端”を人が担う構図だ。
──生成AIを「個人の便利ツール」から全社展開へ広げるコツは?
奥野氏(住友化学): 当社ではフェーズを分けて展開した。第1フェーズでは、安心して使える社内版環境の整備とガイドライン策定を実施。この際、PoCの初期段階から法務や知財部門を巻き込んで議論を重ねたことが、実効性のある安心・安全なルール作りに直結した。その後、説明会やセミナーを地道に繰り返したことで、週当たり50%以上の社員が利用する水準に到達した。
しかし「個人利用の普及」と「日常業務への定着・組織改革」の間には大きな溝が存在する。個人の工夫だけでは部門横断の業務プロセスは見直せない。そのため現在は、全社プロジェクトとして組織横断で業務プロセスの再設計に取り組んでいる。
香川氏(LINEヤフー): ツールを導入するだけでは大きな組織変革は起きない。重要なのは、生成AIが最大限に力を発揮できる「環境整備」であり、社内システムとの連携やデータの整備、そしてセキュリティへの理解醸成が不可欠だ。
また、外部の講師を呼んで説明してもらうだけでは浸透しにくい。そこで当社では「社内でうまく使いこなしている社員」を社内講師として育成。社内の人間が社内にノウハウを伝播していくサイクルを作った。完璧な基盤が整うのを待つのではなく、変化のスピードに合わせて走りながら調整していく柔軟性が求められる。
進藤氏(ディップ): 私からは、あえて現場目線での「失敗から得た3つの教訓」をお伝えしたい。
机上で何時間も企画書を作る前に、まずは触って動かしてみる。
「AIを活用しよう」と構えさせると現場は身構えてしまう。普段使う検索サービスのように「気付いたら裏側で生成AIが動いていて恩恵を受けていた」という自然な組み込み方が理想だ。
「全社でAI利用率◯%」といった義務感を持たせると、現場はやらされ感から拒絶反応を示す。業務の中で自然と使いたくなる動線作りが先決だ。
──明日から組織でAI推進を一歩進めるために、まず何をすべきか?
奥野氏(住友化学): 生成AIのスキルは、専門知識がなくても今から十分に身に付けられるもの。私自身も、もともとは生成AIの専門人材だったわけではない。構えることを止め、まずは積極的に触って学ぶという一歩を踏み出すことが大切だ。
香川氏(LINEヤフー): 生成AIを使うことで「自分の能力が何倍にも拡張される感覚」をぜひ楽しんでほしい。生成AIと組むことで新しい挑戦ができるというワクワク感を持ってほしい。
進藤氏(ディップ): まずは「自分が一ユーザーとして使ってみて、素直に感動すること」だ。自分が体感して「これ本当に便利だよ」と隣の同僚に伝える。そうした草の根の共有が、結果として最も早く周りを変える力になる。
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