ここまで考えると「需要をどう読むか」だけでなく、小売りが提供する価値そのものについても、見方を変える必要がある。かつては小売りの価値として「安さ」や「豊富な品ぞろえ」が重視されてきた。しかし、食べたいものが決まっていない客に棚いっぱいの商品を見せても、それは選ぶ手間を押しつけるだけかもしれない。安く大量に用意しても、今日の気分に合わなければ売れ残る。
これから価値が生まれるのは、客が「今日は何にしよう」と迷う、その瞬間ではないだろうか。客が「今日はこれを食べたい」と思ったとき、その需要に合わせて商品を出せるかどうか。事前に需要を当てようとするのではなく、大量の商品を並べて売れるのを待つのでもない。その日ごとに変わる気分を、店の側が受け止める。
そこに、これからの小売りの勝ち筋がある。もちろん、実現は簡単ではない。柔軟に対応しようとするあまり、商品の種類や生産量を増やしすぎれば、売れ残りや廃棄につながる。鮮度を保ちながら複数の選択肢を用意し、需要に合わせて量を動かすには、売り場だけでなく、製造、物流、発注の仕組みまで変えなければならない。
予測して当てようとする限り、現実とのズレは必ず残る。そのズレは、店では売れ残りや欠品となって表れる。だから、個々の商品の需要を細かく読み切ろうとするのではなく、変化を受け止められる幅を持つ。客が選んだときに、素早く応えられるように備える。
いつも需要が高い定番商品は切らさない。そして、移り変わる「今日、どれにしよう」には、後から商品や数量を動かせる余地を持って応える。この2つがそろったとき、店は初めて、客のその日の需要に無理なく応えられるようになる。
次回は連載の締めくくりとして、需要が生まれる場所へ、供給する側から近づいていく方法を考えたい。待つのをやめて、先回りする。それが、最後の「やめる」だ。
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