デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
商品のスキャンは店員が対応し、支払い手段の選択などは利用客が行う――小売業界でセミセルフレジの導入は当たり前の光景となりました。スーパーマーケットはもちろん、大手調剤チェーンの一部店舗でも導入されるほどです。
人手不足対策として有効な設備投資であることは確かですが「導入したのに人時生産性が思ったほど高まらない」という声も現場から聞こえてきます。なぜ、そうなるのでしょうか。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」シニアフェロー Nextリテール分科会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質2025DX』
結論から言えば、セミセルフレジによってレジの処理効率は確実に上がります。レジベンダー各社が過去に公表してきたデータには、セミセルフレジの導入によりレジ作業効率が1.5〜2倍に向上するという数値が並びます。ただし、これらは少し古い時期に測定された数字が多いことに注意が必要です。
有人レジでは、店員が商品をスキャンし、金額を告げ、現金またはキャッシュレス決済まで一連の作業をこなします。一方セミセルフレジでは、スキャンは店員ですが、支払いを行うのは来店客自身です。店員は決済のやり取りをする必要がない分、1人当たりの対応時間が短くなります。
現在は〇〇ペイなどの決済手段が多様化し、ポイントカードの読み取り、クーポン適用の有無、電子マネーの残高チャージなど、支払いに関するオペレーションが以前より複雑化しています。結果として、有人レジ1人当たりの処理時間はむしろ延びる傾向にあります。だからこそセミセルフレジの有用性は増しています。
本稿では、有人レジ1人当たりの処理時間を70秒、セミセルフレジ1人当たりの処理時間を45秒と仮定して試算します。
すると1時間あたりの対応客数は次のようになります。
有人レジ:3600秒 ÷ 70秒 = 約51人
セミセルフレジ:3600秒 ÷ 45秒 = 80人
増加倍率は約1.56倍。つまり、同じ1台のレジで1時間に処理できる客数が5割以上増える計算です。店員のレジ対応時間の短縮率に換算すると約36%になります。
3台のレジを運用するケースで比較すると、有人レジ3台では1時間あたり約154人に対応できますが、セミセルフレジ3台では240人。差は86人です。ピークの1時間に150人の会計が必要な店舗では、有人レジなら3台が必要な一方、セミセルフレジなら2台で賄えるのです。レジ担当者1人を品出しや売り場メンテナンスに振り替えられる計算になります。
数字だけ見ると、セミセルフレジは非常に優れた省人化投資に見えます。
ところが、実際の店舗運営でレジ人時生産性の向上効果が2割程度にとどまるケースは少なくありません。その主な要因は2つあります。
セミセルフレジの導入によって、ある時間帯に必要なレジ人員が理論上「3人」から「2.5人」相当に下がったとしましょう。しかし、シフトに「0.5人」を配置することはできません。何も工夫しないと3人配置を維持せざるを得ないため、レジ担当者の手待ち時間が増えるだけで、人時削減にはつながらないのです。
つまり余力が「端数」として残る限り、設備投資の効果は見えにくくなります。
もう一つの要因は、LSP(Labor Scheduling Program)との連動不足です。
LSPとは、売り上げ予測・客数予測・作業量データなどを基に、時間帯別・部門別の人員配置を計画するシステムを指します。多くの大手小売チェーンが導入していますが、レジ設備の変更に合わせて計画を見直すケースは意外と少ないのです。
レジ処理効率が上がっても、LSP上の「レジ必要人員」の計算ロジックが旧来のままであれば、出勤人数やシフトは変わりません。設備だけが新しくなり、配置人員は従来通りという状態が続くのです。
セミセルフレジの投資対効果を引き出すには、LSPと連動したシフト再設計が不可欠です。具体的には、レジ担当を「専任」と「兼任」に分けて設計する方法が有効です。
専任レジ担当は、通常時のレジ対応を担います。レジ待ち人数が一定を超えた場合に限り、兼任レジ担当を呼び出す仕組みにするのです。兼任レジ担当は、通常時は品出し・前進陳列・売場メンテナンスを行い、必要なタイミングだけレジ応援に入ります。
この運用を成立させるには、LSPにセミセルフレジ導入後のレジ処理速度データを反映し、時間帯別に必要な専任人員を再計算することが前提になります。客数予測の精度が高いほど、兼任担当の呼び出し判断を適切に行えるため、品出し作業を止めるロスも最小化できます。また、来店客を過度に待たせる事態も回避できます。
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