経営の三原則である「共感」「敬意」「信頼」は、そこに「社員は人である」という当たり前があってこそ。「人の顔」がなければ、共感は同調圧力になり、敬意は放置になり、信頼は自己責任にいとも簡単に変化します。
はてなの従業員200人程度という組織規模は、経営トップや幹部が社員一人一人の顔を覚え、日常的に対面で向き合える絶好なサイズ感です。本来であれば、大企業にはない「顔の見える距離感」や「風通しの良さ」こそが、中小企業の最大の強みであり、危機における強力な安全網となるはずでした。
しかし、今回の事件が浮き彫りにしたのは、その距離の近さが「監視と丸投げ」に終始し、肝心の「対話」や「心理的安全」に昇華されていなかったというリアルです。
どれほど厳格なセキュリティシステムを構築しても、最後に組織を守るのは「これ、何かおかしくないですか?」と上下左右に声を掛け合える人間関係です。とりわけトップと社員が物理的・心理的に近い規模の組織において、風通しの良さは単なる居心地の良さだけを意味しません。異変や失敗、不安を隠さずに早期共有できる「組織のレジリエンス(復元力)」そのものです。
トップが現場に敬意を払い、社員を「会社のコマ」としてではなく「心を持った自分と同じ人」として向き合えているか。その姿勢から生まれる信頼関係があって初めて、人の可能性が引き出されます。そうした社員は孤独でもなければ、どんな事態に遭遇しようともパニックに翻弄されることはありません。
対面で向き合える距離にありながら、互いの心を見失っていたはてなの事件は、全ての中小企業経営者に対して「わが社の『風通し』は、本当の意味で機能しているか」を問いかけているのではないでしょうか。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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