もっとも、AIが提示できるのはあくまで「出会いのきっかけ」に過ぎない。ただマッチングさせただけでは、何も起きない、売り込みの嵐になるといった可能性もある。
高橋理事長によると、中小企業は名刺交換まではするが、翌日にメールを送る人はまずいないという。自社に自信があり、連携するなら相手から連絡が来るはずだと考えるからだ。一方で専門の営業部隊を持つ企業が紛れ込むと、翌日から営業メールの嵐になり、取引先から不満が出る。それでは「どちらもだめだ」と高橋理事長は指摘する。
そのため西武信用金庫では、企業同士を引き合わせた後も支店の職員が間に入り、商談の行方を最後まで見届ける。
高橋理事長は「企業同士のマッチングだが、実際にはうちの支店同士の職員のマッチングだ。そして最後まで追う」と強調する。
同信金は20年前に「営業係」という呼称をやめ、企業支援を担う担当者をコーディネーターと呼んでいる。企業と企業を出会わせ、国の補助金を紹介し、大学との産学連携を仲介するのが仕事だと位置付けたからだ。AIは入り口であって「最終的に埋め合わせていくのは従来から持っている人の力」と高橋理事長は語る。
職員が見届けた商談の結果が、その職員の頭の中にとどまれば、顧客情報が担当者の中にしかない状態に戻ってしまう。重要なのは、結果を個人の頭の中にとどめず、組織の資産にすることだ。面談後に顧客からもらった資料や面談ログ、決算書をAIに読み込ませると、解析・保管され、次の候補出しに反映される。「活動すればするほど」金融機関独自のデータベースになると土手本氏は説明する。
こうした現場の知見をAIに蓄積する試みは、他行でも始まっている。例えば、りそな銀行の事例では、AIが読み取れる面談ログの書式をTAILOR WORKSと定め、担当者の記録を取り込み始めた。決算書や融資実績のような社内データをAIに渡す金融機関は「増えてはいる一方で、まだ実現に至っているところは多くない」(土手本氏)
今回のビジネスフェア当日は、AIの事前リストを基に計210件の個別商談が行われた。西武信金はこれらの商談履歴をデータベースに入れ、次回フェアまでの1年間の営業に使う方針だ。この210件の商談のその後を誰が見届け、どの書式で残すかで、AIが候補を出し、人が見届け、結果がAIに戻る循環が一巡するかどうかが決まる。
金融・FintechとAIを取材するジャーナリスト。アイティメディアでテクノロジー媒体とビジネス媒体の創刊編集長、取締役を歴任し、2023年に独立。技術と事業の両方の現場を見てきた経験から、AIや金融サービスを経営視点で取材する。会社四季報では上場企業の業績取材も手掛ける。
「kintoneの対抗馬」か――ラクス「ASURACORE」が“売り上げ1000億円”を狙えるワケ
あえて「経済圏を持たない」Vポイント、Olive連携を武器にどう戦う? 社長が語る
“100万ドル超の資産”を持つ日本人「290万人」、激化する「富裕層ビジネス」 SMBC、MUFG、みずほの戦略と課題Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング