JR北海道からSL拝借、東武鉄道に「ビジネスチャンス」到来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
とてつもなく楽しいニュースだ。東武鉄道が2017年を目標に蒸気機関車の運行を準備しているという。JR北海道で活躍の場を失った機関車を借り受け、ついに大手私鉄がSL観光列車に名乗りを上げた。その背景に、東武鉄道のシニア顧客獲得がありそうだ。
スカイツリー順調で、東武鉄道は本業に回帰
調子が悪そうだとはいえ、まだまだ現役の蒸気機関車。その里親に東武鉄道が名乗りを上げた。かなり素早い動きだったと言える。名古屋市もかねてより蒸気機関車運行を宣言していたけれど、頼みの大井川鐵道からは断られてしまった。名古屋市にもチャンスはあったはずだ。東武鉄道の発表に驚き、悔しい思いをしたに違いない。
東武鉄道にとって、蒸気機関車の運行にどんな意味があるだろうか。東武鉄道によると、「東武グループ中期経営計画2014〜2016」で掲げた「日光・鬼怒川地区等沿線観光地の活力創出」が目的だという。この中期経営計画は2014年4月30日に発表されており、確かに日光・鬼怒川地区等沿線観光地の活力創出も掲げられている。
ただし、その具体例としては「訪日外国人観光客向けサービスの拡充」「日光いろは坂女子駅伝へ協力」「日光東照宮 400年式年大祭と連動」「日光レークサイドホテルリニューアル」であり、鉄道事業面の言及は「訪日外国人旅行客向け企画券」くらいだ。蒸気機関車の文字はない。そもそも運行予定は2017年度である。中期経営計画完了の翌年だ。
しかし、この中期経営計画の全体を見渡すと、今まで「東京スカイツリー」に傾倒していた施策から、グループ全体への投資配分に変わったと読み取れる。そして2015年4月には新型特急電車「500系」の導入を発表した。運行開始時期は奇しくもSL運転と同時期の2017年度である。東武鉄道としては、本当は東京スカイツリー開業に合わせて新型特急を走らせたかっただろう。しかし東京スカイツリー関連投資は膨大で、鉄道サービスまで手が回らなかった。東武鉄道は今ようやく「本業」に力点を戻そうとしている。
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