JR北海道からSL拝借、東武鉄道に「ビジネスチャンス」到来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
とてつもなく楽しいニュースだ。東武鉄道が2017年を目標に蒸気機関車の運行を準備しているという。JR北海道で活躍の場を失った機関車を借り受け、ついに大手私鉄がSL観光列車に名乗りを上げた。その背景に、東武鉄道のシニア顧客獲得がありそうだ。
東武鉄道の目論見は「シニア獲得」か
関東では秩父鉄道、JR東日本高崎支社、真岡鐵道がSLを運行している。SL運転で先行している大井川鐵道は「きかんしゃトーマス」(関連記事)で対抗する。そうした中で大手私鉄の東武鉄道の参入だ。SL観光列車の乱立と、それを受けた各鉄道会社の戦略が興味深い。
東武鉄道が商売上手だと思う理由は運行区間だ。SLの集客だけ考えたら、もっと都心寄りがいい。リニューアルで投資が続くアーバンパークラインこと野田線でもいいし、観光要素の話題が寂しい東上線という手もある。今回選ばれた鬼怒川線の下今市〜鬼怒川温泉間は都心から最も遠い。だがそこがいい。都心から新型特急に乗ってきてもらえれば、SL列車だけではなく、本線系統の集客にもつながる。この辺りは付近に空港もなく、ほかの鉄道路線とも離れ、東京からはバスの直行便もない。ほぼ東武鉄道で行くしかない場所だ。
蒸気機関車は子どもに大人気。それは確かだけど、東武鉄道の本命はシニア層だろう。60代から70代。お年寄りと呼んでは失礼なほど、元気でお金持ちの人々がいる。JR東日本の「大人の休日倶楽部」が順調のように(関連記事)、今、国内旅行の主な参加者はシニア層である。そして、この人たちは蒸気機関車を「懐かしい」と思ってくれるギリギリの世代だ。
東武鉄道は今までもシニア層向けの取り組みをしていた。2015年1月5日から3月19日まで、平日限定で「60歳からの ふつか お休みきっぷ」を販売した。文字通り60歳以上限定で、東武本線系統(東京スカイツリーラインとその支線群)に2日間乗り放題で3200円。東武ワールドスクウェアと東武博物館の入場料割引特典付きだ。このきっぷに手応えがあったと思われる。
さらに、東武鉄道の旅行ポータルサイト「電車の旅 東武沿線おでかけ情報」でも、シニア向けコンテンツ「電車で懐かし旅〜あの日の自分に帰る旅〜」を掲載している。シニア世代が中学時代を過ごした場所、初めての社員旅行で訪ねた場所を訪ねたり、忙しくて旅に縁のなかった人が出掛けたりする様子をレポートしている。
どちらも取り組みとしては始まったばかりだけど、東武鉄道がシニア層獲得に動き、その一環として蒸気機関車を選んだとしたらつじつまが合う。少子化傾向で子どもは減っているけれど、逆にシニア層は増える。シニア向け旅市場はビジネスチャンスだ。
東武鉄道のSL運行は、JR北海道にとって天の助けだ。維持費がかかる上に持てあました蒸気機関車を引き取ってもらえて、貸借料という収入も得られる。東武鉄道が同業のJR北海道を助けたいとしたら美談だ。ただし、東武鉄道もしたたかである。ちゃんと利益を確保する筋道を立てている。目標通りの運行開始を願い、乗車する日を楽しみに待ちたい。
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