なぜ甘い? 映画やドラマの鉄道考証──蒸気機関車C62形「129号機」のナゾ:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
映画やドラマの「鉄道考証」は、なぜズサンなのだろうか。制作側にも諸事情ありそうだし、駅や列車の場面は重要ではないかもしれないが、鉄道ファンには気になる。でも見方を変えると、そのズサンなところに資料的な価値が見つかったりもする。やっぱり映画は面白い。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
『男はつらいよ』シリーズの「寅さん」といえば渥美清。彼が主演した『喜劇・急行列車』という映画がある。1967年制作で、渥美清が寅さんを演じる1年前の作品だ。渥美清はブルートレインの車掌を演じる。当時のブルートレインは20系客車。国鉄初の冷暖房完備車両だ。食堂車や個室もあり、走るホテルと呼ばれた。車掌は寅さんと違って奥さんがいて、子どもにはすべて列車の名前を付けるほどの鉄道好きだ。
この作品にヘンな場面がある。車掌が浮気をしていると勘違いした妻が、車掌が乗務する「富士」より後発の新幹線「こだま」に乗って追いかけ、熱海で乗り込む。新幹線で夜行列車に追いつくというアイデアは、現在の2時間ドラマの旅情ミステリーでも定番だ。時刻表トリックとしておかしくはない。
ヘンなところは、「こだま」が「富士」を追い越す場面だ。妻が窓から凝視する列車は、ブルートレインの20系客車ではなく、茶色の旧型客車。機関車も茶色だった。別の列車では緊張感がまるで違う。物語としてもつじつまが合わない。この場面は、昭和のガンコな鉄道趣味オヤジたちから苦情殺到ではなかったか。
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