京浜東北線・根岸線の架線切断事故にもの申す:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
いささか旧聞に属する話題で恐縮。会社で職員が失敗したとき、そこに至る事情を顧みず会社側が報道会見で、あたかも「職員のミス」とするような説明があった。報道もそれを受けて「機械に任せていれば問題なかった」などと報じた。とんでもない話だ。
エアセクションとATC
テレビなどの報道で「エアセクション」については図解やアニメで紹介された。まるで鉄道雑学番組の様相を呈しており、正しく理解された人も多いだろう。こんなに鉄道の技術が広まった事例も珍しい。私の仕事がなくなっちゃう……という冗談はさておき。
補足するとエアセクションは電気の境目である。電気を供給する場所は架線だけど、送電できる範囲は限られている。架線は電線と同じように伝導性の高い素材が使われているとはいえ、距離が伸びるほど電圧が低下する。電圧か低いと電車に十分な電流を送れない。そこで、供給範囲を区切って、それぞれの区間に電気を供給する。その区間の境目がエアセクションだ。
鉄道にはもう1つ「デッドセクション」という設備もある。これは主に直流電化区間と交流電化区間の境目に使われる。直流同士、交流同士でも、極端に電圧が異なったり、周波数が異なる場合に設置される。有名なところでは、常磐線の取手駅〜藤代駅間、東北本線の黒磯駅構内などだ。この区間を通過するために、両方の電気方式に対応する電車や機関車が用いられる。
デッドセクションは、区間内の長距離に渡って電気を通さない架線を設置する。これを無電区間、あるいは死電区間といって、デッド(死)セクションの語源となっている。列車は死電区間を惰性で走行し、その間に車内の電気設備を切り替える。かつては通過時に室内灯が消えるのですぐに分かった。この区間で電車が停まると、電気が供給されないから動けなくなってしまう。救援用のバッテリーカーやディーゼル機関車で救出してもらう。
エアセクションの場合は電化方式が同じだから、死電区間を設けず、両側から電力を供給する架線を並べる。並んだ架線にパンタグラフが同時に接触すると、電位差でスパークが起きる。これは電気溶接とほぼ同じ原理で、金属、つまり架線を溶かしてしまう。ただし、通過するだけならスパークは一瞬で、パンタグラフや架線へのダメージは小さい。
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