全国に大量発生の観光列車、ほとんどが「一代限り」か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
鉄道は巨大な装置産業だ。線路にも駅にも車両にもお金がかかる。だから設備投資は計画的に、慎重に取り組まなくてはいけない。それでもやむを得ず設備が余る。実は、各地で誕生する観光列車は、余剰設備を活用するアイデアだ。それだけに寿命は短いかもしれない。
まだ使えるけど余ったキハ40系
キハ40系は従来車より少し高めの220馬力エンジンを1基搭載していた。ただし大きく頑丈になったため車体は重い。その結果、加速は鈍く、上り勾配のスピードも遅い車両になった。ローカル支線から地方都市への幹線に乗り入れる通勤列車では、幹線の他の列車の足を引っ張った。
これでは地方交通の期待に応えられない。旅客サービスや運行効率の観点から、もっと高性能で運行コストの安い車両が望まれた。そこで国鉄を分割民営化するときに、軽量で大出力エンジンを2基搭載したキハ54形を開発し、JR北海道とJR四国に配備した。国鉄分割民営化後のJR東日本は独自に最大出力330馬力のエンジンを1基搭載したキハ100系、最大出力420馬力のキハ110系を投入する。JR西日本は沿線自治体からの高速化要請を受け、自治体の資金協力も得て新型ディーゼルカーの導入を進めた。JR九州も都市近郊向けに新型高性能のディーゼルカーを導入している。
現在もキハ40系はローカル線で活躍している。古い車両は製造から40年が経過し、比較的新しい車両でも製造から33年が過ぎた。廃車も進む一方で、まだまだ現役である。本来なら製造から30年を超えたキハ40系は淘汰されていく。もちろん老朽化した車両から順に廃車されているけれど、まだまだ使える車両もある。国鉄時代の車両は質実剛健だ。これがあだになってしまった。こうして「性能が高くないわりに程度の良い古い車両」が余った。廃車するにはもったいない、という状況になった。
まだ使えるなら使ったほうが良い。少しでも売り上げを増やしたい。しかしいまや普通列車には使えない。そこで考え出された方法が「観光列車への改造」だ。冒頭で紹介したリゾートしらかみ、みすゞ潮彩、伊予灘ものがたり、指宿のたまて箱、或る列車を含めて、2015年9月現在、キハ40系を改造した観光車両は約15種類。JR西日本は10月から能登方面に「花嫁のれん」の運行を始めるし、2016年春から岡山地区で「ノスタルジー」を運行する。今後もキハ40系を使った観光列車が登場するだろう。
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