秋は鉄道イベントの季節 そこにある2つの意味:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
9月から11月にかけて、鉄道会社主催のイベントが増える。全国各地から鉄道ファンが訪れ、沿線の人々も遊びに来る。なぜ鉄道会社はイベントを開催するか。そして来場者はそこでどう楽しみ、何を学べきか。
タレントが来なくても集客力はある
鉄道の日イベントの主な内容は、「見学」「体験」「物販」だ。
見学は車両基地など、ふだん乗客としては立ち入れない場所を公開し、見学できるという催しだ。鉄道車両は誰もが乗れるし見ているはずだけど、実は静止しているところをじっくり観察できる機会は少ない。鉄道会社によっては、ふだんは乗れず、見る機会も少ない保線車両なども公開してくれる。相互直通運転を実施している路線の車両基地では、直通先の会社の協力で、乗り入れ先の車両も出張展示される。大きな車両工場では、電車をクレーンでつり上げる様子も見せてくれる。
「体験」は、運転体験、車内放送体験だ。車両基地構内の線路で、本職の運転士の指導を受けながら電車を動かせる。車掌として車内放送やドアの開閉操作もできる。ただし展示物と違って体験できる人数に限りがあるため、抽選制となっている場合が多い。子ども用の制服をわざわざ作って、記念撮影させてくれたりする。これも鉄道ファンの憧れである。
「物販」は、使用済み鉄道車両の部品やレールの切れ端などを販売する。本来は鉄くずとして業者に引き取ってもらうようなモノのうち、「ハンドル」「メーター」「吊り手」「駅名標」など、分かりやすいものを売っている。オークションの形態を取ったり、人気商品は抽選になったりする。最近は廃品だけではなく、鉄道会社のカレンダーやグッズなど、鉄道ファン向けの雑貨も増えている。
鉄道の日イベントは一部の体験イベントなどを除けば無料だ。物販コーナーもあるから鉄道会社にとっては売り上げもあるとはいえ、機械工具が多く危険な場所もあるから、警備員が必要だし、休日出勤の社員もいる。車両基地公開では見学スペースを作るため、前日に電車をほかの基地に移動させるなど準備にも手間ひまがかかっている。
珍しいモノがたくさんあるから、タレントを呼ぶ必要はない。鉄道の現場を見せるだけでも多くの人々が集まる。最近はグッズ販売の売り上げもまとまっているようだ。その上で、大手私鉄ではタレントを呼んでトークショーを開催してくれる。最近では鉄道タレントという分野も成立しているようだ。人気タレントを呼べばそれなりに費用がかかるし、売り出し中のタレントのタイアップといえどもタダではない。だから鉄道会社にとっては赤字。見学する側としては、本当にありがたい。
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