秋は鉄道イベントの季節 そこにある2つの意味:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
9月から11月にかけて、鉄道会社主催のイベントが増える。全国各地から鉄道ファンが訪れ、沿線の人々も遊びに来る。なぜ鉄道会社はイベントを開催するか。そして来場者はそこでどう楽しみ、何を学べきか。
鉄道会社に求められる「仕切り」のテクニック
鉄道の日イベントは、鉄道ファン向けと地域住民向けという2つの意味がある。この意味で、私が今まで見た中では、新潟県の新津車両製作所のイベントが秀逸だった。車両工場の内部公開で鉄道ファンの好奇心を満たす一方で、場内には電車型のトレーラーやミニ列車のアトラクションを用意し、巨大なトランポリンなどの遊具も設置していた。子どもたちは大喜びだ。車両基地と言うよりも年に一度の移動遊園地だった。
立ち話程度だったけれど、何人の参加者に聞いてみたら「この地域には大型娯楽施設が少ないので、この催しを楽しみにしている」という声が多かった。そしてさりげなく、工場の施設の展示物が興味深かった。新津車両製作所は広大な敷地だけど、実は住宅地に隣接している。そこで、騒音源となりそうな機械は敷地の中央に配置し、その周囲に比較的静穏な建物を配置して防音壁の役目を持たせている。「工場全体の作業効率より、環境への影響を考慮した」とのこと。こうした説明も、見学会でなければ知り得ない情報だ。
ただし、鉄道ファンと地域の人々は、同じ目的で来場しているわけではない。小さなトラブルも結構ある。ある会社の車両基地公開イベントで見た光景をお伝えする。鉄道ファンは電車の写真を撮りたいけれど、親子連れが電車の前に子どもを立たせて記念写真を撮っている。ここは譲り合いの精神が必要だけど、子どもは空気を読めないし、親も子どもと電車を同時に撮るために手間取ったりする。鉄道ファン同士でも同様で、床下の部品をじっくり見たいファンがいると、電車を撮りたい人には邪魔になる。そのうちに罵声が飛び交い、嫌な思い出が残る。
こういう場面を少しでも減らすために、鉄道会社側としては“仕切り”の研究が必要だ。見学ルートを設定したり、子どもに人気の体験イベントと撮影イベントの時間をわざと同じにして来場者を分散させたりする。撮影会については、東武鉄道、小田急電鉄の仕切りは良かった。電車を並べて、そのかなり手前にロープを置いた。西武鉄道はさらに、説明員のトークも笑いを誘い、スムーズに誘導できていた。どんなトークだったか詳細は覚えていないけれど、2013年のサッカーワールドカップ予選で話題になった渋谷のDJポリスと同じくらい巧みだった。
誰だって電車を撮りたい、手前に人が重なってほしくない。電車から離れるほど、同時に撮影できる人は増える。実は子どもと記念写真を撮りたい人も、ある程度電車から離れたほうが、電車全体と子どもをフレームに収めやすくなる。規制ロープの張り方と誘導説明次第で、電車の撮影会はこんなに穏やかになるものかと感心した。
こうしたノウハウは、ぜひ鉄道会社間で共有してほしい。既に取り組んでいる会社もあると思うけれど、イベント担当者は他社のイベントに出向いて見学すると良いと思う。居心地の良いイベント、つまり来場者の滞在時間が長いほど、お客さんが使う金額は増える。飲食回数が増え、何度も物販コーナーに立ち寄ってくれるからだ。これはテーマパークやイベント事業の基本である。
鉄道会社さん、PRイベントだから赤字でも良いなんて思っていませんか。儲かったっていいんですよ。来場者が笑顔で過ごしてくれるなら。
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