全国新幹線計画は「改軌論」の亡霊:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)
明治5年に開業した日本の鉄道は、軌間(レールの間隔)を1067ミリメートルとした。しかし欧米の標準軌間は1435ミリメートルだ。狭軌の日本の鉄道は、速度も輸送力も欧米に劣った。そして今、日本も標準軌の新幹線で海外へ勝負に出た。ただ、これは諸刃の剣かもしれない。
三六軌間は英国の目論見だった?
三六軌間の日本の鉄道ネットワークはIT用語で言う「デファクトスタンダード」ではなかった。ガラケーも、Windows以前のPCも、デファクトスタンダードを見誤り、企業もユーザーも右往左往した。鉄道の教訓を生かせなかったといえる。
そもそも、なぜ日本の鉄道は三六軌間を採用してしまったか。明確な資料はないという。しかし、当時、英国から鉄道の技術供与を受ける交渉をした大隈重信は、後年「英国の言われるままに三六軌間を受け入れた」と語っている。他の規格との比較検討もせず、アイミツさえ取らなかったと思われる。現代のビジネスでは考えられないことだ。
ただし、ここで大隈重信を責めては気の毒だ。当時はまだ鉄道の可能性や有用性が確定していなかった。英国は技術の提供だけではなく、資金も援助してくれた。反論する立場も材料もなかった。
それでは、なぜ英国は標準軌ではなく、三六軌間を日本に提案したのだろうか。これにも諸説ある。三六軌間は標準軌より施設や車両がひとまわり小さいため、費用が安い。費用が少なければ延伸もはかどる。山岳の多い日本の地形では、曲線半径が小さい三六軌間の方が適している。
英国の本音は、鉄道開業後も設備や車両を売り込みやすくなるからだった。英国を含む欧米では標準軌だったけれど、英国の植民地は三六軌間が標準だった。こうした車両を日本に輸出しようと目論んだ。つまり、まんまと英国規格に乗せられてしまった。
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