全国新幹線計画は「改軌論」の亡霊:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/3 ページ)
明治5年に開業した日本の鉄道は、軌間(レールの間隔)を1067ミリメートルとした。しかし欧米の標準軌間は1435ミリメートルだ。狭軌の日本の鉄道は、速度も輸送力も欧米に劣った。そして今、日本も標準軌の新幹線で海外へ勝負に出た。ただ、これは諸刃の剣かもしれない。
三六軌間の功罪
三六軌間の採用と改軌論の失敗を教訓に、日本社会は規格に対して慎重になり、アイミツを習慣としたかもしれない。その意味で、鉄道にとっては不幸だったけれども、その後の日本社会の教訓として役立ったといえそうだ。
「新幹線開業で日本の国有鉄道は世界標準規格となった」とか「在来線は新幹線に劣る」とか、とかく在来線は格下に見られている。しかし、三六軌間を採用したおかげでメリットもあった。鉄道のガラパゴス化によって、日本は独自に鉄道の技術を発明、発展させて、世界に類を見ないほどの安全性、定時性を作り上げた。
英国をはじめ、欧米はもっと日本にレールや車両を売りつけようと思っていた。しかし、欧米が予想した以上に日本人は勤勉で、技術の習得が早かった。1893年には蒸気機関車の国産化に成功、1912年には大型機も製造した。1913年には量産型9600形を開発。現在は1台だけ稼働している。JR九州の「SL人吉」だ。1901年に官営八幡製鉄所が国産のレールを製造開始する。
日本の鉄道網の発展も速かった。日本製のレールと機関車によって、鉄道開業から30年間で約7000キロメートルの路線網を形成した。三六軌間の特性が日本の地形にとって適切だったといえる。それから今日に至るまで、欧米の鉄道産業は日本で大きなチャンスがなかった。市場が閉鎖的という批判もあるけれど、日本は標準軌ではないから、欧米のメーカーは鉄道車両を売りにくい。せいぜい部品止まりだ。
^失敗は成功のもと? ●ガラパゴスから世界標準市場へ →l_sugiyama04.jpg,全国新幹線計画。青は開業済み、赤は建設中、ピンクは全国新幹線鉄道整備法に基づく計画路線,全国新幹線計画。青は開業済み、赤は建設中、ピンクは全国新幹線鉄道整備法に基づく計画路線 世界の鉄道車両メーカーが数社に集約されていく中で、日本では独自の鉄道車両メーカーが存続している。そして川崎車両、日立製作所などは海外への輸出もできるようになった。これらのメーカーは、日本の三六軌間に守られ、育まれた。もっとも、裏を返せば、鉄道会社にとって安価な海外製車両を導入しづらくなっていたとも言える。 標準軌の新幹線の成功も三六軌間が維持された結果といえないか。もし在来線が改軌していたら、東海道新幹線は都市部で在来線に乗り入れたかもしれない。所要時間は増えるけれど、用地買収コストは下がるからだ。新幹線は三六軌間とは相容れないから、独立した路線となり、高速で安全なシステムが出来上がった。 日本の鉄道史において、三六軌間の採用は失策かもしれない。しかし、だからこそ日本は独自に技術を発展させ、新幹線を作り、標準軌による新たな都市間鉄道ネットワークを作ろうとしている。改軌論の亡霊が復活し、140年以上の三六軌間の呪縛から解放される時がきた。 もっとも、これは海外メーカーにとってもチャンスだ。日本は新幹線を海外に輸出しようとしているけれど、逆に海外から「日本の鉄道市場を解放せよ」という圧力が高まる可能性もある。新たな改軌論の亡霊は、海外からやってくるかもしれない。 %連載アラート 関連記事:ALL http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1504/24/news039.html,i http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1410/03/news011.html,i http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1411/07/news020.html,i http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1404/25/news019.html,i関連記事
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