混沌から抜け出せぬEセグメント:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
世の中にあまたあるクルマの中で、Eセグメントと明確に認知されているのはわずか3台しかない。なぜそんなに少ないのだろうか……?
高級は合理主義と相容れない
しかしDセグメントとなるとそうはいかない。自動車の歴史の中で、エンジンフードの長さはクルマの豊かさの象徴と見られてきた。ノーズが長いクルマは高級な大排気量多気筒エンジンを搭載しており、短いクルマは実用一点張りの小さなエンジンを搭載している。つまりショートノーズ化はどうしても高級感を損なう。
加えて純然たるデザインの面から見ても問題があった。Cセグメントと異なり、Dセグメントほとんどのクルマが独立したトランクを持つ3ボックススタイルだったのだが、短いノーズがトランクとどうしても釣り合わない。かといって2ボックスにするわけにもいかない。ノーズの長さとトランクの有無は同じファミリーカー用途の中で高級なDセグと安価なCセグの識別点になっていたから、Dセグのデザイン合理化はある意味自己否定でもあったのだ。
しかも、もっと本質的な問題がある。本来豊かさとは無駄が生み出すものだ。建築で言えば、巨大な玄関のファサートがそうだ。ファサートを必要最小限のコンパクトなものにすれば、その分居間やダイニングを広くして実用性を高めることができる。合理的ではあるが、それは豊かさとは別の話である。
だからDセグメントはCセグメントより豊かであることを表現する意味でもノーズを長くしたかった。だが、この合理的デザインを毅然と跳ね除けるにしては、Dセグメントもまた室内空間の余裕は十分とは言えなかったのである。この難しい問題を解決すべく、世界中の自動車メーカーが、プレミアム性を維持しながらどうやってショートノーズを実現するかを競い、1980年代の終わりになってようやくDセグメントはそのボディサイズに相応しい広大な室内空間を獲得したのである。
関連記事
- 自動車の「セグメント」とは何か? そのルーツを探る
国内外のメーカーを問わず、自動車を分類ときに使う「セグメント」。そもそもこれが持つ意味や基準とは一体何なのだろうか――。 - Aセグメントのクルマ事情
約100年前にT型フォードが成し遂げた革新によって、クルマは庶民にも手が届く乗り物となった。その偉業は現在の「Aセグメント」にも脈々と受け継がれているのである。 - 自動車世界の中心であるCセグメント、しかし浮沈は激しい
フォルクスワーゲンのゴルフが道を切り開いたCセグメントは、世界のメーカー各社がその後を追随し、今では自動車の中心的クラスになった。しかし、これから先はどうなるのだろうか……。 - Dセグメント興亡史
Dセグメントはかつて日本の社会制度の恩恵を受けて成長し、制度改革によって衰亡していった。その歴史を振り返る。 - 「週刊モータージャーナル」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.