混沌から抜け出せぬEセグメント:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
世の中にあまたあるクルマの中で、Eセグメントと明確に認知されているのはわずか3台しかない。なぜそんなに少ないのだろうか……?
見えないビジョン
さて、こういう一連の流れに完全に置いていかれたのがEセグメントだ。Eセグメントはついにショートノーズデザインを実現することができず、かつてのセダンのままフリーズしていたのである。豊かさこそが存在理由の核になるEセグメントセダンは、合理性という時代の変化を受け入れることができなかった。ちなみに米国ではこのEセグメントに近いクラスのクルマがV6エンジンにスケールダウンされて横置きFFに切り替わったが、不評に次ぐ不評で全く泣かず飛ばずだった。
こうしてEセグメントは限られた人のニーズを満たすためのクルマになっていくのである。行き着く先はプレミム性の追求だ。「ミニバンのような実用性に偏った貧乏くさいものに乗れるか」という保守的な人で、かつDセグメントではプレミアム性が足りないとする人たちのためのクルマである。ベンツのEクラス、BMWの5シリーズ、アウディのA6というラインアップを見ればそれははっきりするだろう。
一方、自動車メーカーの側から見ると、Eセグメントはまた特殊な位置付けだ。プレミアムセダンとしては上にトップエンドたるLセグメントが君臨するので、プレミアムと言いつつもそれはあくまでもパーソナルユースである。しかしDセグ以上の内容を求められれば、どうしても先進装備を投入せざるを得ない。
こうしてEセグメントはそのルックスはどこまでも保守的でプレミアム、エンジニアリング的にはアバンギャルドという二面性を持つ商品に育っていった。高い動力性能と最先端の安全性能、高運動性能と電子技術による車両コントロール。そうして価格はウナギ登りに上がっていく。その価格に見合うプレミアムブランド製のEセグメント以外はどんどん姿を消していった。
しかしながら、セダンというかつての保守本流である自動車の形式を保ちつつ、これからEセグメントがどういう方向に進むのかをきちんと提示できているメーカーはない。Eセグの未来はオイルショック後をいまだに引きずったまま混沌の中にあるのだ。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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