トヨタは世界一への足固めを始めた:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
フォルクスワーゲンがつまづいた今、トヨタが王座に立ち続けるのはほぼ間違いないだろう。しかし真の意味で世界一になるためにはやるべきことがある。
複雑な改革をユーザーに届ける役目を誰が果たすのか
問題はメディアの側にもある。かつて、全盛期の自動車雑誌は季刊なども含めると100媒体以上あった。販売部数も極めて多かったので、そこで技術説明をすることは1億人に対する説明としてある程度機能していたわけだ。ところが今では、ごく限られたマニアのものになってしまったので、広く伝える役目はもう果たせない。
一方で、今回のTNGAレベルの巨大なプロジェクトのカイゼンを技術的な面でフォローしようとする媒体が自動車雑誌以外にあるかというと、これも難しい。本来そこはより多くの人に情報を送り届けられるwebの役割のはずだが、筆者の原稿も毎度「長い」「簡潔に」というコメントが付く。だが上で紹介したリンクを見てもらえば分かるように、トヨタ自身だってそんなに簡単に説明できないから46項目に渡って、長文の文章で説明しているわけだ。できないことはできない。
今や技術は極めて複雑になってきている。例えば、排ガス/低燃費技術のEGR(Exhaust Gas Recirculation)や、遅閉じミラーサイクルのようなものは、メーカーのやっていることをきちんと説明しようとすれば技術的な前提から書き起こさないと説明できない。加えて、ペダルオフセットというレベルの単語ですら「横文字使うな」とコメントが付く始末である。そこまで想定するなら、アクセルとかブレーキとかは日本語にしなくて大丈夫なのかと思う。そうしてまた文字数が増える。
そういう環境下であっても、メーカーがいいクルマを作ろうとしているときには、その詳細を文字数を使ってちゃんと伝えようとする姿勢でいたいと筆者は思うのだ。そうでないと真面目な企業努力を多くのユーザーに伝えられる媒体がどこにもなくなってしまう。説明しなくとも乗れば分かる人ばかりならいいが、それは難しい。
伝え手がいなければ、トヨタが本当にいいクルマを作ろうとしても、何をやろうとしているのかが市場から評価されずに、きっと元に戻ってしまう。それはユーザーにとっても幸せでない。理想は、欲しいクルマを買ったら、どれもが外れなく良いクルマであるという世界だ。そのためにメーカーの良き努力を伝えることに、メディアはもっと責任を持たなくてはいけない。そうすることで日本の自動車が良くなり、自動車を基幹作業とする日本の経済が強くなるのだから。
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