手詰まり感のJR北海道、国営に戻す議論も必要ではないか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
北海道新幹線開業を控え、JR北海道は背水の陣で経営の立て直しに取り組んでいる。しかし同社の報道発表も地元紙のスクープも悲しい情報ばかり。現場の士気の低下が心配だ。皆が前向きに進むために、斬新な考え方が必要ではないか。
JR北海道の悲鳴を聞け
JR北海道は切り詰めて北海道新幹線に力を入れているけれど、北海道新幹線は儲からない。開業から3年間で150億円の赤字の見込み。しかも運行は1日13往復で、この数では1時間1本の運行にはならない。なぜこんな路線を複線で作ってしまったか。単線で十分だった。JR北海道は大丈夫だろうか。JR東日本が技術支援をし、国や道なども安全対策を始めとした資金援助の枠組みを作っている。しかし手詰まりの感がある。
こんな状況でも、鉄道の現場の皆さんは頑張っている。しかし士気は下がっているのだろう。安全義務の不手際、法令違反などの案件が続き、11月11日にはJR北海道がコンプライアンス問題を公表し、教育に取り組むと発表している。
JR北海道では2011年ごろから事故が続き、安全面の不備が浮き彫りになった(関連記事)。その主な原因が赤字経営による安全コストの軽視とあって、現在も対策が続いている。その内容は「とにかく運行経費を節約して安全面に集中せよ」だ。ローカル線を切り捨てて、幹線と新幹線に経営資源を振り向ける「選択と集中」である。これは会社経営としては間違っていない。しかし、ローカル列車の廃止で札幌圏以外の道民に犠牲を強いているし、観光列車まで減らしては楽しくない。明るい未来が見えない。
JR北海道はローカル線を減便して利用しにくい路線にして、廃止するつもりではないか、という穿った見方もある。しかしそれは早計だ。JR北海道は高波被害を受けて運休中の日高本線について、当初は修復予算を出せないとしていた。しかし今月16日、自治体の継続的な支援を条件として、復旧費用の10億円を負担すると提案した。この金額は復旧費用総額の3分の1にあたる。国の鉄道施設安全対策事業費補助金制度は、鉄道事業者と自治体と国で3分の1ずつの負担が原則となっている。JR北海道の提案はこの条件を満たす。
つまり、JR北海道は今のところ、路線そのものを廃止するつもりはなく、自治体の支援を受けて維持したいと考えている。乗客数の少なさ、赤字の多さを積極的に発表しているけれど、これは廃止の予告ではなく、自治体の理解を得たいという悲鳴だ。道も国も、この声に耳を傾ける必要がある。
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