その後の人生を変えた沖縄戦:大田昌秀の「日本を背負って立つリーダーたちよ」(3/3 ページ)
かつて沖縄県知事として日本政府や米国政府と何度も激しい議論を交わした大田昌秀氏。その大田氏が語るリーダーシップ論とは――。
無学を恥じる
そんな地獄のような戦場でしたが、人生を変える出会いもありました。
避難していた地下壕の中に、東京文理科大学を出た白井という兵隊がいました。彼はウェブスターの「ポケット英英辞典」を戦場に持ち込んでいて、朝から晩まで暇さえあればこの辞典を読んでいたのです。
沖縄戦が終わり、しばらくしてからも、日本の敗残兵たちが米軍のテント小屋に手榴弾を投げ込み、もぬけの殻になったテントにあったラジオやレコードを聴いてどんちゃん騒ぎをしていました。そして缶詰などを奪って壕に戻り、それを食べて生き延びていたのです。僕なんかがテント小屋に行ったときには、既に兵隊に食糧は全部取られていて、散らかった雑誌や新聞があるだけでした。それを拾って白井さんに持って行って見せたら、彼がすらすらと読んで、「もう日本は戦争に負けてる」と言ったのです。
それまで僕らは、英語は敵性言語といって、勉強するのを禁止されていました。だからまったく英語が読めませんでした。そうした中、白井さんが英字新聞などをすらすらと読んで、日本がポツダム宣言を受諾して降伏したことを教えてくれたのです。
ただし、周辺の敗残兵に日本は負けたと言ったら、2人とも殺されるから、いっさい言うなと口止めされました。そのとき僕は戦争に負けた悔しさよりも、自分がまったく英語の読めない無学、学問のなさにショックを受けたわけです。
その時点ではまだ周辺を敵に囲まれていて、生き残る可能性がないときでした。僕が白井さんに「いいですね、こんなに外国の言葉がすらすら読めて」と言ったら、彼が「大田くん、もし生き残ることができたらね、君も東京に来て、英語を勉強しろよ」とだけ言ってくれました。この一言が文字通り、その後の僕の人生を決めたわけです。(談)
(構成:伏見学)
関連記事
- 大雪でも高級天ぷらを貪る総理――日本の未来は大丈夫なのか?
安倍総理が2月16日に行った「会食」がやり玉に挙がっている。関東・甲信で大雪が降ったにもかかわらず、総理は東京の高級天ぷら店で舌鼓を打っていた。こうした行動に批判の声が挙がっているが、筆者の原田氏は違う角度で見ている。それは……。 - 先の見通せない時代、リーダーに必要な3つの要素とは
チームや組織を引っ張っていくリーダーの責任は増すばかり。悩めるリーダーに「アイディール・リーダー」という新しい考え方を提示しているのが、Ideal Leaders株式会社だ。代表取締役ファウンダーの永井氏にその取り組みを聞いた。 - 部下を育てられない上司は評価されない――「全員リーダー」を実現するGEの人材育成法
世界最大のコングロマリット、ゼネラル・エレクトリック。変化の激しい時代でも成長を続けるコツは、人材育成にあるという。一般的な外資系企業のイメージとは異なる、GE流の人材育成、それを実現する文化と仕組みに迫る。 - ミニジョブスを抱えている企業は強くなれる
今すぐにスティーブ・ジョブズにはなれなくても、「ミニジョブズ」くらいならなれるかもしれない。組織の中に1人でも多くのミニジョブスを抱えている企業は強くなれるだろう。ミニジョブズとはズバリ「変えられる人」のことだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.