エネルギー・シフトが及ぼす各業界へのインパクト:政策の大転換期を迎えた(4/5 ページ)
多くの産業でエネルギーにかかわるさまざまな状況が世界規模で変化している。各産業でどのような変革がなされるのかについて紹介する。
電気とガスの完全自由化による他産業の参入
目を家庭向けサービスに転じよう。電気とガスで今後起こるエネルギーの自由化は、発電・送配電・小売りの分離と自由化を引き起こす。それにより顧客のアカウントを巡り、各エネルギー会社が携帯電話各社などと組むなど、言わば「顧客アカウント大争奪戦」が生じる。
例えば、1つの家計で見たときに、電気は1カ月約1万円、ガスは約5000円払っているとする。携帯電話は、親子が皆で使っていると合わせて数万円とけっこう大きな額になる。さらに水道や固定電話など、公共料金と必要な固定費を多くの人々は銀行口座から毎月自動引き落としで支払っている。
顧客アカウント大争奪戦では、このコストを、全部一括で管理しようという動きである。アカウントを握った企業は、各家庭の電気やガスの使用量、通信費などの情報をすべて手に入れることができる。個別のコストを管理するだけでなく、ひとまとめにすることで、アカウントの生活にかかるさまざまな情報のみならず、その引き落とし口座も把握し、携帯電話番号、さらにメールアドレスもすべて握っているとなれば、あらゆる消費パワーの吸引が起こるのではないかと容易に想定される。各家庭のエネルギーコストは季節変動はあれど不可欠な支払いで、毎月の家計の支払いの中では大きなウエイトを占める。これを巡り、各企業が業種を超えた提携や統廃合などの動きが進むであろう。
アカウントを握った企業は、顧客のいろいろな情報を入手することで、まずモノを紹介し売り込みができる。毎月使う光熱費のフローの部分を把握できれば、今度はその人の生活パターンを分析し、そこから、その人に合った商品をプロモーションする。
購買行動に結び付けられたら、次に引き落とし口座やクレジットカードその他の決済手段を抑えているので「決済」を獲得できる。決済から「ポイント贈呈」につながり、最終的に「お金を貸しましょう」になる。各種料金の支払い状況から信用情報を正確に得られ、新たな金融商品やサービスが提案できるようにもなる。例えば、地域によってはエネルギー使用量の季節変動が大きいため、リボルビング払いを導入するなどの金融サービスなども考えられる。
こうしてみると、エネルギーのアカウントを把握するということは、さまざまな業界にとって非常に重要なマーケティングのツールになり得るという意味で、大きなインパクトを有する。大手Eコマース企業がクレジットカードを普及させて、ポイントを給付しているのは、当該企業はモノを売り、今後は電力も射程に入れることでユーティリティにも入り、グループの旅行会社で旅行の履歴も把握し、同じクレジットカードを使って決済もし、金融で融資もし、どんどん顧客の支出を獲ろうとしている動きと見ることができる。このように伝統的なユーティリティ企業が、これまでとは全く異なるプレイヤーと組むことで、新しいサービス形態が生まれようとしているため、顧客争奪戦の様相を呈することになっている。
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