エネルギー・シフトが及ぼす各業界へのインパクト:政策の大転換期を迎えた(5/5 ページ)
多くの産業でエネルギーにかかわるさまざまな状況が世界規模で変化している。各産業でどのような変革がなされるのかについて紹介する。
エネルギー業界に押し寄せる変化の波
エネルギー業界にとっては、「電力とガスの自由化」は非常に大きな影響があることは自明のことである。従前、市民へのエネルギーの安定供給ということを絶対的な目的として、岩盤の規制で守られていたエネルギー業界も、市場の自由化の波が押し寄せてきており、もはや変化が避けられない状況である。この自由化を前に、エネルギーを生成する技術および市場でのプレイヤーともに多様化しており、例えば、新しく電力小売りに参加する企業として約200社もの企業が手を挙げたとされる。
新たな市場を狙う新規参入者にとっては、巨大なビジネスチャンスが広がっていると言える。ただし、これら電力小売りに参加する新規事業者は、単にこれまで地域の電力会社が消費者に共有してきたスタイルと同様のサービスを供給するだけでは新たな市場も開拓できない。社会に何らかの新しい付加価値をもたらすことが新規事業者には求められる。
エネルギー業界において、ITを活用した消費者への新しいサービスには大きな期待がかかるが、従来の「エネルギーのIT化」として挙げられてきたスマートグリッドの管理や、発電送配電の分離・小売りの分離、新システムの構築だけでは不十分である。
顧客との接点で得られる情報を生かし、新しいサービスを提供することにITを生かすべきだろう。例えば、エネルギーを売る会社と保険商品は極めて親和性が高く、エネルギー会社は保険の販売会社になれる可能性も有する。
エネルギーと金融や保険と、一見かけ離れている産業が、ITで顧客のアカウントとライフラインの使用状況を把握することでまったく新しい役割を果たすことも可能になる。既存の金融機関が取り込むのか、エネルギー会社か、または流通などの他業種もしくはまったくの新プレイヤーか、いち早くビジネスチャンスをつかみ、販売チャネルを手に入れた者が覇者となるであろう。
事業者や消費者にとっては、これまで所与と考えていたエネルギー事業者を、自分たちの消費スタイルに合うもの、割安なもの、環境にやさしいといった主義主張に合うもの、安定供給第一といったさまざまな条件から選択肢が増える商品となる。
一方で、伝統的なエネルギー企業にとっては多様なプレイヤーとの新たな競争が待ち受けている。電気の自由化を追う形でガスの自由化も起こり、電気とガスの双方で新しい変革が生じる。多様化したエネルギーをうまく生産に生かしたり、消費者への新しいサービスに発展させたりする企業の競争が始まるだろう。
著者プロフィール
白石章二(しらいし しょうじ)
Strategy& 東京オフィスのパートナー。25年以上にわたり、自動車、産業機械、エネルギー、流通・サービス業など幅広い分野のクライアントに対し、全社成長戦略、技術戦略、新規事業開発、グローバル戦略など多数のプロジェクトを支援してきた。
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